へブラーによる「フランス組曲」

バッハ:フランス組曲

バッハ:フランス組曲

 イングリット・へブラーのバッハ「フランス組曲(全曲)」を聴いている。
 エレガントなピアノのタッチにへブラーの気品が匂い立つ。
 その響きには取り澄ましたものではない
 柔らかに包み込むような優しさがある。
 神格化したバッハではなく人間バッハとして敬意を払い
 ひとりの女性として礼を尽くす凛とした姿勢が感じられる。
 そこには誠実な中にもしっとりとした華やぎがあり 
 穏やかな光を放っている。

 優美で親しみやすい第5番の冒頭のアルマンド
 その愛らしい旋律が好きで、私も弾いてみたことがある。
 学生時代に住んでいた大学の寮のささやかな夕拝で披露したことがあった。
 何も考えずにただ弾き散らしたのを思い出して恥ずかしい。

 イングリット・へブラーの品格のある女性らしさに憧れる。
 この響きを日常の中に意識していきたい。
 

 そういえば抒情的な哀しみを帯びた第2番はグールドの演奏もいい。
 純粋な心を持つ少年が自分自身と対話するように
 いつまでもピアノと戯れているような切なさがある。