谷朝子さんは見えないものが見えているひと。
聴こえない音が聴こえているひと。
だからその光景を、色彩を、音を、フラメンコを通して、
わたしたちに気づかせてくれる。

彼女がまとう艶やかなブルーグリーンの衣裳、それはただの色ではなく、深い湖であり、底知れぬ怖さとともにその水に潤され生かされる細胞の歓びをひたひたと知らしめてくれる。

SAYAKAさんのヴァイオリンは谷さんの思考と共鳴し、低音は黒々とした大地の重さを感じさせ、繊細でありながら息の長い高音はどこまでも透明で、果て無く澄み渡る夜空を想わせる。
そこに響く有田圭輔さんの粗野なカンテは、野生の狼の遠吠えにも似ていて、そこにはつながりを求め続ける孤独がある。誰もが孤独を前提に生きているからこそ、共感が生まれる。

粗野と素朴。谷さんがつねに考えていること。彼女は「アフリカ」を意識するという。人類の原点といわれるアフリカ。土着の原始から発せられるリズムの連続は、極めてリアルでありながら限りなく人を酔わせていく呪詛がある。その「不思議」の距離にあるものを谷朝子さんは捉えている。

柴田亮太郎さんのギター、どこかでピアノが鳴っているように感じるほどクリアな彩りを見せた。

私たちの細胞に眠っている太古の記憶を呼び覚ますようなフラメンコ。あの夜、私たちは同じ夢を見ていたのかも知れない。

谷朝子 パセオフラメンコソロライヴVol.108
4/11(水)高円寺エスペランサ
谷朝子(バイレ)
有田圭輔(カンテ)
柴田亮太郎(ギター)
SAYAKA(ヴァイオリン)