パセオフラメンコライブ Vol.016 屋良有子さん

王羲之の「蘭亭序」が思い浮かんだ。
屋良有子さんのパセオフラメンコライヴ。

書の在り方を変革した堂々たる勢いの中に、
秩序、慎み、知性が調和している極上の名品。

漆黒の衣裳をまとい、
いにしえの言葉で唄う能楽と一体化していく
屋良さんのフラメンコは、
人を何かに開眼させるような求心力がある。

孤独な決断で前に進んでいく潔さは、
決して冷徹なものではなく、
情感の中で逡巡しながら、
何かを振り切っていく覚悟を滲ませ、
胸打たれる。

高円寺エスペランサの2階バルコニーから、
能の声が深く響き降りてくる。
丹田から発せられた重い声は、
ずしんと直に丹田に届く。
太鼓の乾いた音と、
サパテアードが刻む繊細なリズムとの対話が、
不思議なタイムスリップを意識にもたらす。

平松加奈さんのヴァイオリンは、
即興の軽やかさでカルメンを奏でていた。
ビゼーの「ハバネラ」や「ジプシーの歌」は、
思わず一緒に口ずさみたくなる柔らかな歌心があった。
屋良さんは、いつのまにかさりげなく
赤いシージョを腰に巻き付け、
フィンガーシンバルを小さく叩きながら踊っている。
コケティッシュな異空間を
しばし楽しむ。

エスペランサというタブラオを、
どんどん変貌させていく。
フラメンコを深化させていく。
それでも屋良さんの根っこにあるフラメンコは
びくともしない。

「一筆書きのように踊りたい」
ライヴが終わり、屋良さんはそう語っていた。

信念が動となった美しい書を
あらためて思い起しました。

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2月11日(木)
パセオフラメンコライヴ
高円寺エスペランサ

屋良有子(バイレ)
有田圭輔(カンテ)
エミリオ・マジャ(ギター)
平松加奈(ヴァイオリン)
吉谷潔(能楽師
村岡聖美(能楽師