熊川哲也 Kバレエカンパニー『シンデレラ』(5/25 上野 東京文化会館)

Kバレエカンパニー『シンデレラ』(5/25 上野東京文化会館)を観てきた。

アート性とエンターテインメント性の高水準で融合。

優美、官能、毒を併せ持つプロコフィエフ音楽が艶やかな絵巻となった舞台だった。

矢内千夏さんは初のシンデレラ。若くしてプリンシパルに昇格した頃から注目していた。

彼女ならではの、もののあはれを滲ませる抑えた情感が、心の深いところを震わせ、

お伽話を越えた愛の物語として、誰もが知るストーリーに説得力を持たせていた。

矢内さんの、正攻法の凛とした踊りと繊細でありつつ自我を出さないアルカイックな表情は、

観る人にすべてを委ねる、ある種の無常観があり、彼女のこれからの大器を予感させる。

幼い頃から知っているはずの『シンデレラ』に、

何度も涙がこみ上げそうになったのは自分でも新鮮だった。

舞台上のバレエはもちろん、プロコフィエフ音楽の身体性を熟知した

井田勝大さん指揮のシアターオーケストラトーキョーの演奏の素晴らしさを再認識。

東京文化会館はこの日、5階まで埋まり、始まる前は期待に息をのみ、

終わる頃には幸福感に満ちていることを肌で感じた。

この壮大な共感こそが、全幕バレエにおける熊川哲也さんの理想の向かうところなのだろう。