スペイン国立バレエ団 Bプログラム

いやあ素晴らしかった! スペイン国立バレエ団のBプログラムを観て来ました。

ボレロ』が一番印象に残っている。精神のストリップに昂揚した(ストリップほどプリミティブに求められ、それに応え身を削って与えるものはない)。それは生々しい人間をさらけ出すゆえに、いっそう崇高なのだ。ベジャールへのオマージュであることは一目瞭然。その名作から受けたインスピレーションをフラメンコで表現することで濃厚な色彩と熱量を与えた。壮絶な血の色だ。フラメンコの肉体は美しい。ストイックに絞ったバレエとは一味違った、リアルな生命力に溢れていた。

『カンティーニャス・デ・コルドバ』、しなやかで優美、それでいて骨格のしっかりとした美しいオブジェのようなフラメンコ。『ビバ・ナバーラ』、素朴で可憐、足の動きが細やかで饒舌な名人芸のホタ。インマクラーダ・サロモンの軽やかな微笑みが印象的。『セビリア組曲』との再会も楽しみだった。「マエストランサ」、官能的なコンテンポラリー。闘牛士と闘牛の表裏一体の愛憎。「パセオ・デ・エンスエニョ」、Aプログラムで『マントンのソレア』と『サラサーテのサパテアード』をそれぞれ踊ったプリンシパルエステル・フラードとフランシスコ・ベラスコとのエモーショナルなパレハ。フラメンコの真髄を踊ったふたりがドラマティックな深い愛を見せてくれた。まとわりつくほど濃密な愛に浸った。

3年前の来日時のプログラムをさらにバージョンアップした待望の再演。初演時の衝撃とは違う感動に満たされた。プログラムはAB通して、ナハーロ振付の作品、過去の名匠の作品を含め、ナハーロ自身の審美眼を通して、未来に引き継いでいきたいと願う作品群。ナハーロ渾身の舞台に乗る踊り手たちは、初演特有の緊張感からは解放され、ナハーロの意図も振付も血肉化され、踊り手自身のものとなっていた。音楽をたっぷりと使い、空間を染め、踊りに込められた想いは観る者にじっくりと浸透して来た。観終わった後、爽快感に浸っていたのはなぜか? それは、単にナハーロ個人的な思い入れではなく、偏向のない美意識をもって、フラメンコにおける理想を残し伝えようとする、ナハーロのプライドと責任感が伝わって来たからだ。また観たいと願う。ああ名作とはこのような志と努力のもとに生まれ、それが古典となって未来に残って行くのだと気付いた。フラメンコ、クラシコエスパニョール、エスクエラ・ボレーラ、フォルクローレ。スペイン舞踊すべての最高のものがここに在った。

上野の文化会館大ホールは5階まで満席だった。フラメンコにこれだけの人が集まるとはなんと嬉しい光景か。客層はフラメンコ愛好家以上に、アート愛好家が多かった。これだけの人々が、本場スペインからやって来たフラメンコの最高峰を目の当たりにして、惜しみない拍手を送ったのだ。フラメンコ審美眼のハードルはぐんと上がっただろう。かつてガデスが来日したころの興奮を想い出す。目の覚めるような本場の底力を見せつけられた。さあ日本のフラメンコは?と、ワクワクしてくる。踊る人も歌う人も、そして私を含めて書く人間も、腕が鳴るというものだ。

スペイン国立バレエ団2018年日本公演
Bプログラム
10月26日(金)
東京文化会館大ホール