川島桂子 パセオフラメンコカンテソロライヴVol.90

つくり込んだものがない、余計なものが何もない、というのはこんなにも快い。
川島桂子さんのカンテとエンリケ坂井さんのギター、
それぞれに熟成されたものが高純度でブレンドされ、
とろりと流れるように響いてくるフラメンコは薫り高く、品格があった。
それはとても深いのにまったく重くなく身体に沁み透ってきた。

来日中の78歳になるペリーコ氏の姿もあった。
フラメンコのレジェンドが見守る、暖かく、
そして心地よく引き締まった超満席の空間で、
古き良き時代のフラメンコはまさしく源泉のごとく瑞々しく生きていた。
これがフラメンコの生命力なんだ。

川島さんがまだ初心者で、曲種もわからなかった頃、
『ペリーコのアンソロジー』を何度も聴いたという。
そして川島さんはこの夜、その大切にしている曲集から「マリアーナ」を歌った。
いつまでも揺られていたい柔らかな独特のメロディが耳に残る。
エンリケさんは、ギターソロをペリーコ氏に捧げた。
舞台上のお二人にとっても、特別な夜だった。

川島さんの湿度を帯びた艶やかな美声は、
より伸びやかさを増していて、何か肝の据わった開き直りを感じさせた。
それは、葛藤を抱えながら迷いながら、ただ続けていけばいい、
いつか必ずわかる時が来るから、と力づけてくれる声。


懐かしさと新鮮さ、熟成から生まれる新たな始まり。
ひとつのエポックとなる灯火を感じた。
作家で深いアフィシオナードの鳴神響一さんもいらしていた。
濃厚なフラメンコの印象深い一夜だった。

パセオフラメンコライヴVol.90
川島桂子 カンテソロライヴ
2018年5月24日
高円寺エスペランサ
川島桂子(カンテ)
エンリケ坂井(ギター)