『冬の旅』

シューベルト:歌曲集「冬の旅」

シューベルト:歌曲集「冬の旅」

家事をこなしながら、朝からディースカウの歌を聴きつづけている。
この声と出会ったのはシューベルトの『冬の旅』が最初だった。
第一曲目の『Gute Nacht』が好きだ。
この歌を口ずさんでみたくて
 大学の第二外国語でドイツ語を選択したといっても過言ではない。
(惨憺たる成績で「後悔先に立たず」が身に沁みたものだ)
声楽の魅力を知ったのもこの歌曲がきっかけだったといえる。

ビロードのような優しくしっとりと質感のある声。
十代の後半にこのような美しいものと出会っていたにもかかわらず、
20数年ただ無為に過ごして来て
何ものにもなれなかった自分を恥ずかしくおもう。
『Auf dem Flusse』を聴きながら込み上げてくるものがある。

若いときに、幸運にもこの声と出会うことが出来たのは
吉田秀和氏の音楽評のおかげなのは間違いない。
どの文章だったかはっきりとは覚えていないけれど
記憶は淡くつながっている。
あれはレコード芸術の別冊だったか、文庫版の評論集だったか。

いち愛好家の私でさえこれほど寂しい思いを抱いてしまうのに、
吉田氏はどんなお気持ちでこの訃報を聞かれただろうか。
ふと胸をよぎる。