杉並区民オペラ第8回公演『カルメン』

杉並区民オペラ第8回公演
ビゼー作曲/大久保眞邦訳
オペラ『カルメン
7月22日(日)杉並公会堂 

 毎年恒例の杉並区民オペラ合唱団による日本語で上演されるオペラ。
 主な配役はプロの声楽家が務めている。
 日本語で歌われるとともに日本語字幕も同時に出るので、とても分かりやすくストーリーに没頭でき、それぞれの役にすんなりと感情移入して楽しめた。
 ホセとエスカミーリョという男性の正反対の魅力が際立っているので、ヒロイン、カルメンの女性としての苦悩が、哀しみを伴って伝わってくる。
 テノールの高田正人氏は、ホセの生真面目ゆえの優柔不断な弱さを前面に出す。バリトンの古澤利人氏は、エスカミーリョを単に花形というだけではなく、芸術を追及する品格のある闘牛士と捉え、エレガントに演じる。汕友惠子氏演じるカルメンは、純情なホセを愛しながらも、自分たちと運命を共にすべきではないと悟ってしまうゆえに彼を否定する。自身の芸の世界をまっとうしている懐の深いエスカミーリョこそふさわしいことを自覚して心を移しながらも、心の奥ではホセを求めている。そんなジレンマが伝わって来た。
 だから最期は、ホセの向けるナイフに自ら向かって行ったのだと感じた。客席に背を向け、両手を広げてナイフを受け入れたカルメンの姿は、その全身で十字架を象徴していて、衝撃的な印象を残した。このラスト・シーンでは、カルメンとホセを闘牛のように見立てており、人を殺める瞬間を見世物にしてしまう人間の残酷さを浮き彫りするという見事な演出がなされていた。
 第二幕の居酒屋の場面では(第四幕の冒頭も)AMIフラメンコスタジオ(主宰・振付鎌田篤子氏)の踊り手9人によるフラメンコが踊られ、異国情緒を濃厚に醸し出すとともに、その本格的な踊りによって、舞台をより格調高いものにしていた。
カルメン』はどんな味付けをしようと、愛の矛盾を問いかける普遍の物語ゆえに、全世界でもっとも人気のあるオペラだということに改めて気付かされた。

 久々に総合芸術の贅沢さを堪能できた。