シフのシューベルト『即興曲』

シューベルト:即興曲(全曲)

シューベルト:即興曲(全曲)

シューベルト即興曲を、アンドラーシュ・シフの演奏で聴く。
シフが紡ぐ音色は、ソフトフォーカスのかかったような柔らかな光をまといながらも、生命の輪郭をくっきりとみせる。甘い感傷は排除されており、それゆえにシューベルト自身の生き生きとした音楽への愛情がストレートに伝わってくる。

1978年のシフの若き日の録音。
シフが2009年に録音したバッハのパルティータも愛聴しているが、生きる歓びを感じさせてくれる深みのある響きの源流はすでにこの頃からあったことを知り、静かな感動を覚える。

Op.90の4曲と Op.142の4曲。晩年になってこんなにも色彩豊かで心安らぐ小品を作曲していた。これらの美しい音楽を遺し、翌年、シューベルトは31歳という若さでこの世を去る。これら8曲のうち、生前に出版されたものは2曲だけだったという。
シューベルトの短い人生が幸せだったのかどうかは解らない。けれど死ぬまで希望の光を心に持って生きていきたい。そんなふうに思わせてくれる優しい作品群。