ポリーニ ブラームス『ピアノ五重奏曲 ヘ短調作品34』

ブラームス:ピアノ五重奏曲作品34

ブラームス:ピアノ五重奏曲作品34

無性にブラームスを聴きたくなる。そういう時は気分が沈みがちな時が多い。けれど、今はその気持ちのまま引きこもってしまうわけにはいかない。自然に手に取ったのは、マウリツィオ・ポリーニのピアノ、イタリア弦楽四重奏団による「ピアノ五重奏」だった。

冒頭こそ互いに探り合うような慎重さを見せるが、本筋に入った途端、全開の気迫で音が流れ出す。ブリリアントなピアノの粒ぞろいの音が疾走し、艶やかで張りのある4つの弦が、それぞれにソロの存在感をもって覆いかぶさるように絡んでくる。

ブラームス特有の厚い内声音は、ハーモニーによる重厚さというより、個々の旋律のぶつかり合いによるエネルギーの熱さを生み出す。

それは北ドイツ生まれの思慮深い内面での葛藤ではなく、爆発寸前の雄々しい闘争。けれどそれらは知性によって絶妙に制御されていて、時折垣間見せる荒々しさの火花さえいっそう魅力的なものにする。

弦とピアノが互いに追い上げ、引き離し、追いつき、追い越す。挑発と冷静の間を行き来するような、そんなスリルに満ちた真剣勝負の競演が繰り広げられていく。それらは渦巻くように一体となり、一気にクライマックスを駆け抜けていく。熱狂はあっさりと終焉し、華やいだ高揚感だけが残る。彼らがイタリアの人であったことを思い出す。