ノイマン指揮 ドヴォルザーク『新世界より』

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」、他

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」、他

チェコの巨匠ヴァーツラフ・ノイマン指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団による、ドヴォルザーク交響曲第9番『新世界より』を聴く。

1995年9月に74歳で亡くなったノイマンが、同じ年の1月に録音した演奏である。チェコの指揮者として、同郷の大作曲家ドヴォルザークのこの作品は200回を超えて演奏して来たというが、その最後の録音となったもの。

熱い郷愁が押し寄せてくる。それはノイマンが創り出すオーケストレーションの響きにとどまらない。ヴァイオリン、ホルン、オーボエ……、ひとつひとつの楽器の音色が、それを奏でる人たちの故郷を想う歌そのものであり、心からほとばしる旋律が幾重にもなって、その陰翳が波となってなだれ込んでくるのだ。

おおらかなテンポは風格の中に命あるドラマを生み出す。そのたっぷりと歌われる一音一音の艶やかさと伸びやかさに精神が遠くに解放されていく。自らを育んでくれた国、そこから生まれた偉大なる音楽家と時代を超えて愛される名曲。それらに深い敬意を払い、慈しみながら奏でられているのが伝わって来る。その厚い音のうねりに共鳴して胸がいっぱいになる。

故郷を想う懐かしさにこんなにも哀しみが宿るのはなぜだろう。故郷の祭りで聴いた民謡、母が歌ってくれた子守歌、父が教えてくれた世界の美しい曲の数々。『新世界より』の中の民族音楽の調べが胸の奥に届いたとき、ふいにそういった音の記憶が去来して、泣きたくなった。

主婦として、母として、女性として、感情を抑えるのが美徳といわれる環境の中で過ごしているうちに、本心を伝えるということを忘れかけていたような気がする。自分の本当の気持ちがどこにあるのかすらわからなくなっていた。けれど、小学生のころ初めて全楽章を聴き、クラシック音楽を好きになるきっかけとなったこの曲を久しぶりにじっくりと味わい、自分自身の剥き出しの感情は今もまっさらなまま残っていたことを知る。

人の眼を気にし過ぎてすり減っていたものが、少しずつ癒されていく。生々しい自分の感情の手触りをもう少し愛してみよう。そんなことを思った。