『今井翼×サムライ支倉 大いなる旅への挑戦』

今井翼×サムライ支倉 大いなる旅への挑戦』(NHK総合)を観ました。

能楽師に所作を習い、初めて面をつけてもらうシーンが印象に残る。
能楽師が語った「こめかみを締めているので常にトランス状態にある」という言葉も凄かったが、今井さんが初めてその面をつけてすぐに、視界が狭いことを実感し、それはすなわち「孤独である」ということであり、それを背負って舞台に立たなければならないという覚悟をすっと抱いた、その勘の良さと潔さに、まず胸を打たれた。

多忙を極める超一流の出演者たちゆえになかなか揃わず、全体リハーサル無しのぶっつけ本番となった恐怖の中で、今井さんは「頭の中ですべての流れを確認する」と淡々という。どれほど冷静と情熱のバランスを取りながら集中して、イメージを描いていたことだろう。

本番で、今井さんは、面の持つ重みに負けてはいなかった。それどころか、その醸し出す威厳に満ちた空気を支配していた。フラメンコも能をも超越した、静寂の舞。その全身には、時間と距離を貫いてスペインと日本の懸け橋になろうとした支倉の精神が漲っていた。支倉を導く「月の精」を演じた小島章司さんの舞には、純粋に支倉の心で対峙していた。

能は鎮魂のために舞う、という。

舞台が終わり、礼を尽くした所作で面をはずした今井さんの顔が、舞台の前と違っていた。何かに深く入り込んだ不動の眼差しをしていた。一度きりの舞台の上で支倉の一生を濃密に体現した今井さんは、深いところでその魂に触れ、さらに計り知れない成長を遂げたのではないだろうか。

「かなり気が入っていたので。まさに精神世界ですね」

カメラに気付いた今井さんは、ふと穏やかな笑顔に戻りそう語った。まさにプロとして鍛錬を重ねてきている人だと感じた。

文化特使としてスペインと日本の懸け橋になっていきたい、と語る今井翼さんが、支倉常長の姿と重なった。