『タモリ』

タモリ』(文藝別冊 河出書房新社)がおもしろい。

「日本人というのはメジャーと常識で生活しているんですね」

1977年にタモリ一義名義で書かれたコラムの一文だという。

このムック本には、タモリ自身による文章やインタビューは、
ほとんど載っていない。
タモリの周辺の人々によるエッセイや対談、
そしてその中で時おり引用される、タモリがかつて放った強烈な言葉で、
タモリという特異な存在が浮き彫りになる仕掛けになっている。

周辺といえども、
タモリの危ない面白さに惚れこみ、密に関わってきた
赤塚不二夫山下洋輔らのエッセイの再録や対談などが
ぎっしり収められていて、
かつてそういった前衛的な表現者たちを魅了し、
メジャーに浮上するきっかけとなった
危険な密室芸を披露していた当時のタモリ像が
少しずつ違う角度から
3Dのように浮かび上がる。

「語る」という熱さとは対極にあるといえる、
底知れない空虚さを持つタモリについて論じることは、
恥ずかしさを伴うことであり、
「特集」してまとめてしまうこの本は
「矛盾だ!」と語るエッセイストの言葉が載っていて、
その感覚には共感する部分もあった。
しかしながら、
「メジャー」や「常識」のど真ん中に居るようにみえて、
精神的にはそこからスルリと抜け、
笑いでもって達観しているタモリのことを、
しがらみという安全地帯から抜けられない多くの人々(私も含めて)は、
密かな羨望をもって、
語ったり聞いたりしたかったのだと思う。
この本はその欲求を満たしてくれる。

吉行淳之介タモリについての随筆が再録されているのが嬉しかった。
人間の暗部をユーモアのある語り口で
さりげなく表現していた粋な文士と、タモリとは、
きっと相性が良かったのではないかと想像する。
二人の『恐怖対談』(吉行淳之介)など読んでみたかった。