知性と信頼のフラメンコ『カニサレス・フラメンコ・カルテット』

カニサレス・フラメンコ・カルテットの初日に行ってきました。
(12/18、19 於:新宿文化センター)

いいフラメンコでした。心が熱いもので満たされている感じです。
溢れる愛を感じさせながらも知性とウイットによる抑制の効いた、大人のフラメンコ。

カルテットという少人数の編成だからこそ、研ぎ澄まされ鮮やかに浮かび上がってくるものがある。カニサレスを中心とした4人の洗練された技が、きめ細やかに絡み合いながら、くっきりとした美しい模様を描くように音楽を生み出していく。

スリリングなセッションから、深い信頼で互いにつながっているということが実にさり気なく伝わって来て、それが却って心に静かに浸透して来る。

互いに交わす笑顔が最高に素敵でした。とくに紅一点のチャロ・エスピーノの存在が魅力的。仲間とフラメンコを創り上げていくことの幸せが心の底からこみ上げて来ているような自然な笑顔で、輪の中に華やぎをもたらしていました。パルマカスタネットも正確を極めながら、しなやかで暖かい。パルマを打つ指の先まで気品があり、けれど冷たさは微塵も感じさせず、優雅な色香を滲ませていました。
 
音楽とバイレの関係性も素晴らしかった。カニサレスの高感度の音楽に身を委ねているうちに、自分の身体も自然にリズムを刻み、動き出してくる。ああここで踊れたらどんなに気持ちがいいだろうという感覚が嵩じて来た瞬間に、まるでそれを体現してくれるかのように、チャロ・エスピーノとアンヘル・ムニョスが一振りさらりと踊るのです。それを目の当たりにする快感たるや。バイレとはこうして生まれて来たものなのだと実感しました。

カニサレスの指さばきが、背面の大スクリーンに映し出されるという演出もあり、とても見応えがありました。ただ神技が凄すぎて、トレモロにしてもアルペジオにしてもスケールにしても、あまりにも早い動きで、大きく映し出されていても何が起こっているのか、ギターを弾けない私にはまったく解らない(苦笑)。そこにはまったく力みが無い。弦にそっと触れているだけで芯のある音楽が生まれ出でて来ているように見える。真の超絶技巧とは、そのようにごく自然であるところに行き着いた洗練されたものなのだと改めて感じました。

リアルタイムであっても画像は微妙に遅れて届くものなので、そのほんの一瞬のロスさえもったいないような気がして、気が付けば、やはり生のカニサレスの表情に見入っていました。

愛と情熱のフラメンコを知性と信頼で築き上げた、そんな極上のアルテを堪能しました。最高の気分で年を締めることが出来そうです。


(追記)
愛と信頼の超絶技巧。
仲間たちとの信頼、愛する家族、
そういったものが背景にあるからこそ、
超絶技巧が単に技術論に留まることなく、
心に響いてくるものになる。
最後まで書いてみて、
コンサート会場での様々なシーンが頭によぎり、
気付いた。