『モローとルオー 聖なるものの継承と変容』

美術展『モローとルオー 聖なるものの継承と変容』を
すべりこみで観に行った。
パナソニック汐留ミュージアム 〜12/10)。

モローの絵画の実物を初めて見たのは国立西洋美術館の常設展だった。
上京して間もない学生の頃だ。
小さな絵だったが、深い幻想性があり、
何よりも宝石のようなその煌びやかさに
惹き付けられた。
その後も何かの折にこの美術館を訪れるごとに、
モローみたさに常設展を巡り、
最初の印象はいっそう深まっていった。
モローが一枚でも来ると知れば、
可能な限りその美術展に足を運んで来た。

神話や聖書を題材としたモローの懐古的な絵画がなぜ強い印象を残すのか。
それは伝統的なデッサンに固執していたアカデミズムに
「思索された色彩」の鮮やかな可能性をもたらしたから。
今回の美術展で、そういった事実を知り、
モローに惹かれる理由がやっと自分自身の内で理解できた。

煌めく色彩には重厚さと共に静かな透明感がある。
それは情感の広がりを感じさせる。
そこには、目に見える物を模写するだけの、
デッサンという閉じた世界には無い、
自由への祈りがあった。
それは孤高の魂でもあった。
誰にも支配されない美学が、
ルオーという新しい才能にもつながっていったのだと感じた。

今回の展示は、
神話の煌びやかさよりも
聖書に基づいた絵画の重々しさが勝っている、
精神性の深い作品が多かった。

セピア色の世界に月がほの明るく浮かび、
その周辺にスッと射すように施された青の鮮やかさが、
胸に残っている。

『夜の風景または作業場での乱闘』というルオーの作品があった。
鉱山で作業する労働者階級の男たちの喧嘩を描いていて、
それは、ゴヤの黒い絵の中の『棍棒での決闘』に
影響を受けたかも知れないという解説があった。
人間の狂気と殺意、その生々しい表情に恐怖が引き起こされる。
ここにもスペインの昏く激しい世界があった。
そのテーマは芸術家に何らかのインスピレーションを
与えずにはいられないのだと感じた。


久々の美術展だったが、
絵画の見方が少し変わって来たような気がする。
色彩や構図など、その絵画の魅力を構成しているものを
舞台美術や写真にいつの間にかあてはめてしまう自分に気付いた。
様々な視点がすべてつながっていくことを
おぼろげながら意識している。

『モローとルオー 聖なるものの継承と変容』
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/13/130907/