吉野弘『生命は』
吉野弘『生命は』
詩人、吉野弘さんの随筆がいい。
生命の原理の向こう側にある本質を心の眼差しで捉えていると思う。
(以下引用)
「(虫、風、水…、)花が実を結ぶために、花以外のものの力を借りるという仕組み……、ここには、生命の自己完結を阻もうとする自然の意志が感じられないだろうか。思うに生命というものは、自己に同意し、自己の思い通りに振る舞っている末には、ついに衰滅してしまうような性質のものではないか。……
他者なしでは完結することの不可能な生命。……
この他者同士の関係は、お互いがお互いのための虻や風であることを意識していない関係である。ここが良い。一々、礼を言わなくてもいい。恩に着せたり、又、恩に着せられたりという関係が無い。……
ひとつの生命が、自分だけで完結できるなどと万が一にも自惚れないよう、すべてのものに欠如を与え、欠如の充足を他者に委ねた自然の摂理の妙を思わないわけにはゆかない。」(引用終わり)
この視点から試作を繰り返し、『生命は』という詩が生まれる。
(一部のみ抜粋)
「私も あるとき
誰かのための虻だったろう
あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない」
私自身、なんてダメな人間なんだろうと、がっかりすることばかりだけど、
この言葉と巡り会って、
もしかしたらこんな私でも、
誰かのためにどこかで役に立っているのかも知れない、
と思え、暖かくそっと背中を押してもらったような気がしました。
そしてこのやわらかで力強い関係性は
フラメンコの中にも在ると感じるのです。