パールマンとアシュケナージの『クロイツェル』

パールマンアシュケナージによる、
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ『クロイツェル』を聴く。
1973年の録音。
アシュケナージ、36歳。
パールマン、28歳。

心躍る自由闊達な響き。
ふたりはそれぞれに
時代を担う先鋭的な音楽家として、
革新的な前衛芸術を創り上げた人間ベートーヴェン
正面から向き合う。

過去を生きた?楽聖?を崇めるのではなく、
また既成の古典主義的な枠に捉われることなく、
確信に満ちた情熱を音楽に注ぎ込むことで、
3人の芸術家は時代を軽々と超えて同じ次元で渡り合う。

アシュケナージのピアノは単なる伴奏に収まるわけがない。
ともすればヴァイオリンのつややかな音色を凌駕するほどの
色彩豊かな音を、
重厚にあるいは煌びやかに響かせて、
したたかにパールマンを煽っていく。

それに対して、気鋭のヴァイオリニストは、
その絶え間ない波を余裕で吸収し、
そうすることによって却って彼独特の透明な美音を鮮やかに際立たせながら
ユーモアすら感じさせる暖かさを伴って高らかに歌い上げていく。

彼らの自由なアプローチは、
ベートーヴェンの現代性を立体的に引き出し、
ヴィルトオーゾ的名曲を
「今」に生き生きと蘇らせていた。

それは、内面を軽やかに追求していくことで普遍に辿り着いた
グールドのバッハを思い出させてくれるものだった。

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ<春><クロイツェル>

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ<春><クロイツェル>