プリメラ フラメンコフェスティバル2014 夫婦競演第一日

プリメラフラメンコフェスティバル2014
フラメンコのニューウェーヴ Vol.14『絆』第一日
7月18日(金)/東京(新宿)全労災ホール スペース・ゼロ
【バイレ】宇根由佳/井上圭子/鍜地陽子/小島慶子/小島正子/大塚友美/草野櫻子/入交恒子【ギター】宇根理浩/鈴木淳弘/小原正裕/金田豊/徳永武昭/鈴木尚/原田和彦/高橋紀博【カンテ】有田圭輔/川島桂子/ミゲル・デ・バダホス【パルマ】伊集院史朗

それぞれの愛の形             

 心を寄せる女性舞踊手には、誰に対するよりも気持ちを込めて伴奏する、
とギターをたしなむ知人男性二人が語り合っていた。
 
 なるほどそうであるならば、群舞の中でただひとりギタリストの心を捉える女性は、やはり人を惹き付ける華のあるバイラオーラであり、 溢れる恋心をギターに託して想いを遂げる男性もまた、より繊細で豊かな感性を持ったアーティストといえるのかも知れない。それぞれそんな歴史もあったであろう、フラメンコを通して結ばれた夫婦たちの競演、その熱さに酔いしれた。
 
 宇根理浩、宇根由佳夫妻のタラント。ギターの温もりに包まれ、憂いを帯びた表情で踊る宇根由佳は、男たちの憧れ見る幻想のような芳しさを放つ。鈴木淳弘、井上圭子夫妻のアレグリアス。優雅なバタ・デ・コーラの舞いは咲き誇る大輪の花を想わせ、繊細なサパテアードはバレエのステップのよう。それを支える鈴木の笑顔。愛情に煽られて踊る歓びを想像する。小原正裕、鍜地陽子夫妻のシギリージャ。小原の、シタールを思わせるプリミティブなギターの響きが激しく心を揺さぶる。それは硬派で闘争的な鍜地の踊りと絡みながら共に高みを目指す。フラメンコの源流を大胆に遡ることでシギリージャの魅力を際立たせた重厚な作品だった。金田豊小島慶子夫妻のセラーナ。小島の荘厳な佇まい。その気迫から情感が静かに溢れ出す。かつて師事したファルーコの誇り高さを受け継いでいく。格調高い舞踊に揺るぎない信念が宿っていた。永武昭、小島正子夫妻のタンゴ・デ・マラガ。夫婦の誠実な愛情が滲む。この包容力のある優しさが若手実力派ギタリスト兄弟を育てた。家族への憧憬がこみ上げる。鈴木尚、大塚友美夫妻のタンゴ。色彩溢れるギターにコケティッシュなバイレが柔らかく絡んでいく。浜松への郷土愛を感じる。それはヘレスに暮らしフラメンコを粋に楽しむ男女の姿と重なりゆく。原田和彦、草野櫻子夫妻のアレグリアス。奔放な伸びやかさの中にも端正な折り目正しさがある。都会的な洗練がすっきりと滲む。高橋紀博、入交恒子夫妻のタンゴ・デ・マラガ。高橋のギターソロがゆるやかに湿度を高めていく。その音色に安心して身を委ね、入交は憂いと歓びの陰翳を鮮やかに踊り、詩的でドラマティックな世界を創り上げていく。
 
 これまでライヴやリサイタルで見ていたはずの実力派アーティストたち。夫婦の競演によって、それぞれの持つ本質がより明確に浮き彫りとなっていた。フラメンコの美しさは、清濁併せ持つ人間の本音で勝負する潔さにある。その極みともいえる恋愛を通じて結ばれた男女が織りなす舞台だからこそ、内なるものがストレートに溢れ出ていた。そのリアルな躍動感に胸を打たれる。そういったものを引き出し合う相手と巡り会い、互いに芸術を高めていけるとは、なんと素敵なことだろう。あえていえばもっと官能が出てもいいと思ったが、この奥床しさが日本人のフラメンコの良さなのだろう。