ぞうげって?

「これ、何?」「象牙」「そうげって?」
 少女がママのアクセサリーに興味を持ったらしい。電車に乗っているとき、側に立っている母娘のそんな会話が聞こえてきた。
「象さんの牙で出来てるのよ」「???なんで?」
 少女に象牙が高級品という認識はない。そういう時代だなあと思いながらそのまま聞いていた。
「死んだ象さんの牙から採るの」
「え!? かわいそう」
 少女は何か残酷なものを感じ取ってしまったのだろう、「動物愛護」とか「高級素材」などというフィルターがまったく掛かっていないまっさらな心から素直に出た言葉だった。だから新鮮に響き、印象に残った。「合法」も「非合法」も関係ない、ただ同じ生き物として共振してしまった痛みがそこにあった。幼いからこそ率直に受け止められたのかも知れなかった。「象牙」を取り巻く様々な知識を超えた、きっと一番大切なことを彼女は拙い言葉でごく自然につぶやいていた。
 象牙の是非を問うつもりは無い。ただ、頭でっかちな思想に捉われて自分の本当の想いを見失ってはいないか、固定概念に引き摺られて素朴な直観が麻痺してはいないか、と考えさせられたのでした。