石塚隆充 パセオフラメンコ カンテソロライヴ

パセオフラメンコライヴVol.041
石塚隆充 カンテソロライヴ
12/22(木)高円寺エスペランサ
石塚隆充(カンテ)
智詠(ギター)

力みのない伸びやかな歌声に、気持ちをほぐされる。石塚隆充さんの歌は、フラメンコを理解するためには自分自身を深く掘り下げたうえで「カンテを聴かねばならない」というような構えを、さらりと取り払ってくれる。
普段のライヴでは、その場の雰囲気で自由に歌っていくそうだが、今回は、70分集中のパセオライヴのために珍しくプログラムを組んだという。「今の自分を聴いてもらいたい」という想いのこもった11曲は、石塚さんのMCとともに、まさに一曲ずつ集中して味わいながら石塚さんの“いま”を感じられる、そして石塚さんだからこそ歌える、洒脱でブルーで、そしてどこかノスタルジーの滲む、まさに彼そのものをバランスよく表した選曲だった。一曲一曲が短く、もっと聴きたかったのにと後を引く感覚がほろ苦くて、いい。
エスペランサ2階のバルコニーから歌ったマルティネーテからの、ギター弾き語りのエル・バルコン。そこは舞台では無く、彼の家の窓枠に思えた、そんな甘やかさがある。
智詠さんのささやくような間奏に続いて歌った『チキリン・デ・バチン』が耳に残る。何度も立ち止まっては振り返るような哀しい旋律。消えていくのを惜しみたくなるような余韻を残す。
「安心していろんな世界に行ける」と石塚さんが大きな信頼を寄せるギターの智詠さんは、フラメンコはもちろん、フォルクローレアルゼンチンタンゴなどジャンルを問わずに弾きこなす実力派でありつつ、その魅力的な音色でカンテにどこまでも寄り添い、歌い手の良いものをさらに引き出していく。そして石塚さんもまた、寄り添いたくなるような親しみやすい引力を持っているのだった。ギターデュオによる『インスピラシオン』では音の流れに身を委ねる快さに浸る。ファリャの『El paño moruno』では、クラシカルな歌をナチュラルなフラメンコで歌い上げた。
歌うことが好きでたまらない、という想いが伝わって来る。歌うこと、奏でることでつながっていくトキメキを石塚さんは想い出させてくれる。石塚さんの類を見ないしなやかさは、他者とそうありたいと願うゆえに、カンテにおける挑戦を自らに課して、一歩ずつクリアして来たからこそ、朗らかにそなわっているものだと感じる。
「今度は『ポル・ウナ・カベサ』(アルゼンチンタンゴ「首の差で」)もやってみたいって思ってます。あ、智詠君のギターはすでに完璧なので、あとは僕が練習しなきゃ」と語る笑顔は、本当に嬉しそうだった。協演から生まれて来るものが楽しみで仕方がない、そんな屈託のない表情に、私の鼓動は軽く高鳴った。

プログラム
1, Martinete
2, El balcón
3, El día que me quieras
4, Chiquilín de Bachín
5, El choclo
6, Romance de la luna
7, Inspiración
8, Bulerías
9, El paño moruno
10, El Café de Chinitas
11, Te Camelo