乙川優三郎『虚舟』 さっぱりと生きる

なんてさっぱりとした生き方なんだろう。
乙川優三郎『虚舟』は、読むたびに、
行きたいと望む道程を遠くから照らしてくれる。
ウソやら停滞やら、そういったものが我が身にあると、
容赦なく痛みをもたらす、澄み切ったシビアな光。
だからこそ信頼できる言葉。

「彼女はある決心をした。どう生きたところで同じ月日なら、明日からは笑うだろうと思った。あとから振り返ると、そのとき本当に悔しかったのは、・・・・・・それまで精いっぱい生きてきたつもりの自分の人生を彼女自身が憎んでいることであった。」
「過ぎてしまえば葛藤の痛みは記憶でしかなく、記憶は捨てられるのであった。歳月がいまの自分を作ったことに違いなく、いつまでも自身の過去をうらんでみてもはじまらない。これからは厭でも自分で自分を作るのである。」
(以上引用)