荻野リサ Al son de la tierra 2 東京公演

胸が熱くなるフラメンコだった。

荻野リサさん主宰ライヴAl son de la tierra 2 東京公演。
踊り手出演者全員がそれぞれ踊りとともにカンテも真剣勝負で披露する濃厚なライヴ。
予約開始からわずか2週間で完売したというガルロチを埋め尽くす200席。観客の約99%が女性という華やかさ。そしてそれだけではなく、ここに来た誰もが観る側という受け身に留まることなく、ひとりひとりが舞台の一員となる予感にワクワクしているというような意思のある昂揚感を共有しているように感じました。それが完売のスピードにつながったのでしょう。

歌を、ただ口ずさむだけではなく、身体の底から湧き上がる音楽を感じながらそれをしっかりと声に出して発信できる人が踊るフラメンコは、凄味のある存在感を放つ。今枝友加さんはもちろんその象徴であるアルティスタ。聴くたびに深化を感じさせる彼女は比類ない歌声でこのライヴを牽引しつつも、さまざまなものを分け合える仲間たちと協演する幸福感に包まれていて、その姿が共演者や観客、会場にいるすべての人にどっしりとした安心感をもたらす。それが彼女の懐の深さであり、それがソロライヴの凄味とはまた別の彼女の良さなのだと改めて感じる。

吉田久美子さんの気迫の歌声はフラメンコへの渇望を感じさせ、そして踊りでは力強くもクラシックな女らしさを際立たせていた。ダイナミックさと繊細さ。歌と踊りによって、その人の魅力が立体的に浮かび上がってくる。三枝雄輔さんの歌声に、彼の優しさに触れたような気がした。これまで大胆で純粋と感じていた部分は側面でしかなく、包容力という深みを秘めていることに気付かせてくれた。

荻野リサさんの歌に惹き込まれた。女優が歌うような説得力があった。リサさんは踊りを愛し、歌を愛し、そして何よりも言葉を愛している人であった。高く低く、強く弱く、流れ出る想いを言葉にして、それを噛み締めながら歌うメロディアスな歌にドラマがあり、胸に染み入った。

このライヴは、10年に渡って続けられていることを知った。歌と踊りのライヴを形にしたいという、荻野リサさんの熱い想いがまずあった。そこに最初から協力したのが吉田久美子さんと逸見豪さんだった。小さなハコで続けていたライヴ。歌うことは恥ずかしく、人前に出せるものでは無いかも知れないという葛藤を持ちながらも、いいものだよ、という仲間からの励ましで続けて来られた。そこに三枝雄輔さんや帰国後の今枝友加さんが加わった。手探りであっても例え自信がなくとも、フラメンコへの一途な想いで続けることで信頼が生まれ、その想いは形となって育っていく。「こんなに素晴らしい会場で200席完売したことに驚いています」と荻野リサさんは感謝を込めて、カーテンコールでそう語った。晒す勇気と継続する信念に、私は打たれた。

今の自分にアートを語る資格は無いかも知れないけれど、それでも心が動いたことは、小さな光を掴めたようにただ嬉しく、書き留めておきたかった。
「来年も!」と宣言した荻野リサさんの言葉もまた、嬉しかった。

Al son de la tirra 2 東京公演
7/29(土) 於:新宿 ガルロチ
荻野リサ
今枝友加
吉田久美子
三枝雄輔
逸見豪(ギター)
小林亮(ギター)