昂揚を絞め殺す

「制作に当たっては、まず昂揚が必要だ、と私はおもった。その昂揚を一たん絞め殺して、心の底深く埋葬した上で、原稿用紙に向かわなくてはいけない。」(吉行淳之介『私の文学放浪』)

大好きな吉行淳之介さんの、創作に当たっての自戒のこの言葉は、何となく心の底に残っていて、私自身も文章を書くとき、引っ張り出してくるかのように思い出すことにしている。

この距離感は、人に対してもいつも持っていた方がいいような気がする。
ことに好きな男には。
思いの丈のままぶつかっていっては、離れられるだけ。
私はそんなことばっかり。

クールな吉行さんらしい言葉だけれど、ままならない、手に余るような情感を実は秘めていることを自覚しているからこそ、冷静な言葉を必要としていたのかも知れない。

そんなことを行間から感じてしまうからこそ、より好きになる。