三澤勝弘 パセオフラメンコ ギターソロライヴVol.99
敬愛して止まないリカルドに教えを乞うため、長い時間を掛けて陸路で渡ったスペイン時代のことを、三澤さんは、曲の合間ごとに、記憶を愛おしむように、淡々と語ってくれた。饒舌、というのでもなく、苦しいはずの想い出も、胸に浮かんで来ることがうれしい、そんな感じが伝わってきた。
「(リカルドに教わったのは)30回以上、50回未満、くらいでしょうか。それ以上はもうお金も無かったしね」
「当時は録音も無かったから、あったとしてもさせてもらえなかったでしょうしね、帰り道の石畳の上をね、転ばないようにそおっと歩いた。転んじゃうと忘れそうでね(笑)」
師の教えが、直に、三澤さんの心身に深く刻みつけられているのが分かる。それを大切に大切に音に紡いで来られた。
現代の、デジタルにすべて変換してしまったデータに頼り切っている私たちの体験の、何と脆弱なことだろう。
「夏は暑くてね、(住んでいた)最上階は、窓を開けると40度を越える熱風が吹き込んで来るんです。よく持ったな・・・」
手に持っているギターを見つめ、古くからの戦友に話し掛けるようにそう言って、目を細めた。
音楽と、経験と、言葉と。
時を重ね、それらは同じくらいの質量で、どれも偏ることの無い大切さで、いまはもう何の境目もなく、熟成し、三澤勝弘さんその人の愛すべき人格を練り上げていた。
人の時の濃密な奥行きを感じさせるものこそがフラメンコなんだ、と、そう気付かせてくれた、厳しさと優しさとウイットが沁みる一夜のライヴだった。