漆黒の音楽

 べートーヴェンのピアノ・ソナタ集より、
 第29番 変ロ長調 作品106《ハンマークラヴィア》
 第30番 ホ長調 作品109

 そして、
 第17番 ニ短調 作品31の2《テンペスト
 第21番 ハ長調 作品53《ワルトシュタイン》
 第26番 変ホ長調 作品81《告別》

 エミール・ギレリスの演奏で聴く。
 最近になってこのCDをレコード店で見つけた時は嬉しかった。
 この人の弾くブラームスの協奏曲第1番は、若いころ感銘を受けた。
 その音色には、まさに鋼を叩くような力強さ、
 そして粘りを伴うしなやかさがある。
 一音一音に意味が内在するような奥行きのある音楽が胸に迫ってくる。

 その音は、ベートーヴェンの音楽を構築するのにもふさわしいと思う。

 私は、ブラームスの作品が心のよりどころにあるといっても
 過言ではないが、その礎になったものは、
 まぎれもなく、子供のころ習い親しんでいた
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタだ。
 もちろん、初学者向けの易しい作品に留まっていたが、
 それがきっかけとなり、ケンプ演奏のレコードを
 よく聴くようになった。
 楽譜のソナタ全集を揃えて、眺めながら聴いたり、
 少しピアノで弾いてみたりするのも楽しかった。
 ピアノ協奏曲第5番『皇帝』が初めて買ったスコアだった。

 ベートーヴェンと、ブラームス
 ともに艶やかな漆黒の色彩のイメージが私にはある。
 
 きっとそれがフラメンコにつながったのだと、
 今になって思う。