再び『家霊』
(引用)
「宿命に忍従しようとする不安で逞しい勇気と、救いを信ずる寂しく敬虔な気持ちとが、その後のくめ子の胸の中を朝夕に縺れ合う。それがあまりに息詰まるほど嵩まると彼女はその嵩を心から離して感情の技巧の手先で犬のように綾なしながら、うつらうつら若さをおもう。」
(岡本かの子『家霊』より(新潮文庫『老妓抄』119ページ)
家に入った嫁としての立場から持つべき考え方と、
若いころから個人的に培ってきた見解が、
かい離するばかりだ。
何か物事を思考しなければならないとき、
どちらの視点で捉えるべきか、
自分でも解らなくなって混乱してしまうことがある。
そんなとき、『家霊』をつい手にとって読んでしまう。
自由奔放にみえるかの子も、やはり闘ってきたのだ。
折り合いをつける手だてを、苦しみながら身につけていったのだろう。
多くの女性が通ってきた道だと思えると、私も踏ん張れる。
それにしても、明治の怨念がいまだ平成にも残っているなんて、
怒りを通り越して、笑いが出る。
加齢によるご乱心ではない。