吉行淳之介「技巧的生活」読了

 ゆみ子の、想像妊娠までしてしまうほどの油谷への焦がれるような想い。
 その、思い詰めるほど愛されていたということ自体にのみ喜びを感じ、
 またゆみ子によって不能から回復した喜びを優しさに変える油谷の寂しさ。
 体は交わっても、精神はいつまでたっても交わることのない、
 男と女の孤独。
 
 互いの体を重ねて確かめ合う時だけ味わえる生の充実感と、
 離れた後の寄る辺ない虚しさ。
 吉行淳之介作品に共通する、冷静な文体から立ち上る生々しさが、
 ここでは、リアルな描写によってストレートに伝わってきた。