どっしりとベートーベン

 近所のCDショップで、
 エミール・ギレリスによる、
 ベートーベンのピアノ・ソナタ『熱情』をみつけて、購入。
 『悲愴』『月光』がカップリングされている。

 『熱情』とくに第1楽章の、強靭な意志で上昇していくアルペジオは、
 聴くたびに、私に勇気を与えてくれる。
 だから高校時代から、本当によく聴いた。
 聴くだけに留まらず、例の如く楽譜も手に入れ、
 ピアノで独学で練習もしてみた。
 第1楽章だけは、とりあえず最後まで弾き通すことが出来た。
 もちろん、完璧に弾けるわけもなく、
 ただ音符を音にしてみただけというレベルだが、
 それでも、あの力強く重厚な和音や、パッセージを、
 自分の身体を通して発するという体験は、
 この曲の持つエネルギーが全身に満たしながら流れて、突き抜けていく、
 そんな爽快感がある。

 ギレリスのベートーベンを聴きたいと願っていたが、
 ここ数年は、いろいろなことを整理もせずに気持ちの上で抱え込んでいたせいか、
 そういう想いを、ずっと素通りしたままにしていた。
 先日、偶然ギレリスの『告別』や『ハンマークラヴィーア』を見つけたときは、
 嬉しくなって即購入したのだが、今回もそういう流れがある。
 意識したつもりは無かったが、
 自分の原点に戻ってみることを、自分の内側で欲していたのかもしれない。
 以前の嗜好に立ち返ることで、
 少し落ち着きを取り戻している。
 ブラームスはベートーベンを尊敬していたといわれる。
 私はやはりこの辺りの音楽の世界が好きなのだ。
 そんな新鮮な気持ちで今、聴き直している。
 様々な音楽を聴いてみることは、決して回り道ではないのだと思う。
 
 
 ベートーベンのピアノ・ソナタ全集は、
 ずいぶん昔に、ケンプの演奏で揃えていた。
 時間をかけてでも、向き合うつもりでまた聴いてみよう。