ローザンヌ国際バレエコンクール

 2月に開催された第40回ローザンヌ国際バレエコンクール本選の模様をテレビ録画で観た。
 17歳の菅井円加さんが最高得点で入賞したことはニュースでも大きく取り上げられた。
 コンテンポラリー賞とのダブル受賞というのは本当に素晴らしい。

 関係者のインタビューの中で、ダンスカンパニーNoism(ノイズム)の芸術監督を務め、演出振付家、コンテンポリーダンサーとして第一線で活躍している金森穣氏の菅井さんへのメッセージがとくに印象深かった。
 以下、覚え書きです。

 
・菅井さんのコンテンポラリーバレエについて。

「まず、上半身の使い方がすごく美しいですね。その美しさというのは、身体的な使い方というだけではなくて、そこから醸し出されるニュアンスとか、雰囲気みたいなもの、そして音楽性。つまり表現ですね。そういう意味での上半身の使い方も才能があるんだと思います。
 例えば、床に対するアプローチというのは彼女はすごく優れていて、すっと床に落ちることが出来る。床を掴めるというか。
 次世代のダンサーという気がするのね。だから、本当にバレエだけを小さい頃からやって来て、あれだけすっとコンテンポラリーダンス(くくりがあいまいなんだけど)で、床に対するアプローチをすっと行えるのは、ああ本当に今の子だなと。
 一昔前だと、バレエだけやってたら、床に転がった瞬間に解りますよ。ああこの子はバレエだけやって来たんだなと。
 でも、それが(彼女の場合)解らないくらい。
 だから本当に今の舞踊家なんでしょうね。」


・菅井さんがノイマイヤーのハンブルグ・バレエ団への留学を選んだことについて。

「ノイマイヤーは、クラシックをベースにしている、いわゆるくくりでいったらネオクラシック的な、そこまでクラシックから乖離した動きは求められないし、そういう意味ではいいかも知れない。
 でも、どこに行くかじゃないんですよね。
 自分が何でそこに行くのか、そこから何を学んで、どこに向かいたいのか、という彼女がどうしたいか、であって、どこにいても孤独になる強さと、自分がこれがやりたいんだ、美しいと思うんだ、というものを見出す精神的な強さを持って欲しい。」

(以上インタビューより)
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「床に対するアプローチ」という言葉が新鮮だった。
 現代舞踊ではそういう捉え方をするんですね。
 立った姿勢で飛躍したり回転したりすることが「動」であり、床に寝転がったり座ったりすることは「静」であると、単純にそんなイメージしか持っていなかった。
「床を掴む」という積極的な意識で踊っているということを知ることで、踊りの見方が変わりそうだ。
 小さいころからバレエだけをやっていて床に対するアプローチが自然に出来るのが今の子らしい、というのも面白い。クラシックの動きだけに捉われてしまうことなく、柔軟に対応できるということだろう。
 様々な情報が溢れていて、踊りの多様性について自然に理解していることで、そういう素地が出来ているのは当然のことかも知れない。そういう時代なのだ。
 
 翻って日本のフラメンコももう少し変わってもいいのではなかろうか。いや、新しいことに挑むアーティストはもう大勢いるのです。観る側の意識がついて行っていないということを少し感じている。

 それはさておき、金森氏の後半の言葉が心強い。どこに行くかは問題ではなく、自己の意志と精神力が問われるということ。
 金森氏はモーリス・ベジャールに師事した後、オランダのネザーランドシアターに入団し、そして現在はダンスカンパニーノイズムを主宰されている。厳しい世界で研鑽を積んで、自身の美意識を追求し続けている人ならではのメッセージだ。
 そういえば熊川哲也氏も、賞は関係ない、すべてはこれからだ、というようなことを菅井さん入賞直後のインタビューで語っていた。

 挫折も栄光も過去は過去。志していることに向かって今に打ち込むことが重要なのだ。