『大エルミタージュ美術館展』

 先日、新国立美術館で「セザンヌ展」を観たことは日記に書きましたが、このとき同時に開催されていた「大エルミタージュ美術館展」も観ました。こちらも以前から観たかった美術展でした。セザンヌを観た直後であり、集中力が持続しないかも知れないと思い、出直した方が良いかと少し迷ったのですが、ふだん六本木まではめったに来る機会がないので、続けて鑑賞しました。

 エルミタージュ美術館の絢爛豪華な雰囲気を伝える見応えのある美術展でした。ティツィアーノに代表される16世紀ルネサンスヴェネツィア派絵画にはじまり、17世紀バロックで活躍したルーベンスやヴァン・ダイク、18世紀の優美なロココ絵画のブーシェやルブラン、19世紀ロマン派のドラクロワから印象派のモネ、20世紀初頭のモダニズムマティスピカソなどに至るまで、「ロシアが国家の威信をかけて収集した名画をとおして、400年にわたる西欧絵画の精髄」(図録より引用)を堪能できるわけです。

 エルミタージュ美術館には総数300万点を超える所蔵品があると知り驚きました。今回出品されている83作家89点は、そのほとんどが通常エルミタージュ美術館の壁を飾っているという常設展示作品であり、ロシア国外では最大規模のものとなるそうです。

 名画の数々を鑑賞しながらふと感じたのは、ロシアのお国柄というものがまったく伝わって来ないなあ、ということでした。16世紀から20世紀の西洋絵画の歴史を辿っているうちに、エルミタージュ美術館という枠の印象が薄くなってくるのです。

 でもすべて観終わってから理解しました。帝政ロシア時代、ロシアはヨーロッパの辺境にあるに過ぎず、当時の支配階級の人びとは西欧文化に憧れ、取り入れようとした。そういった思想がロシアであり、その象徴がここにあるのではないだろうか。

 その一方で、人口のほとんどを占めていた農民たちは貧しく文字も読めなかった。その光と翳の落差を想うとき、ロシアの別の側面も浮かび上がって来るような気がします。

 「セザンヌ展」と「大エルミタージュ展」。ひとりの画家の変容と、ひとつの国の歴史。違った視点の美術展を続けてみることで、絵画というジャンルの幅と奥行きを実感しました。

 この日一番印象に残ったのは、やはりセザンヌの『青い花瓶』から感じた「空間の不思議」です。

 細部を追及することが脳を刺激してくれたようです。

 
 セザンヌ展は6/11(月)で終了ですが、
 大エルミタージュ美術展は7/16(祝日)まで開催しています。
 
 新国立美術館
 http://www.nact.jp/

 大エルミタージュ美術館
 http://www.ntv.co.jp/hermitage2012/