ねじめ正一『荒地の恋』

荒地の恋 (文春文庫)

荒地の恋 (文春文庫)

(引用)
「長旅ってのは距離の長い旅のことじゃないさ」
 そう――港南台の家からこのアパートにきたのだって長旅だった。距離にすればわずか十キロだが、丸二年もの時間を費やした、ひどく疲れる旅だった。(以上引用)

 ねじめ正一荒地の恋』読了。
 2007年に単行本で出たときから読みたいと思っていたのが、今になってしまった。でも生々しい感情に支配されていたあの当時でなくて却って良かったのかも知れない。
 恋愛至上主義と普通の暮らしとは、これほどまでに相容れないものだろうか。そんな疑問を持ちつつも、一方では解るような気もしている。
 けれど「解る」とはどういうことだろう。行動に移せない臆病な人間に「解る」などという資格はあるのだろうか。動けないのならば、解ったことにならないのだろうか。自分自身の気持と実際の状況とのギャップのあまりの大きさに、吐き気すら覚える。
「小説」の世界の事なのに、詩人の紡ぐ言葉はこれほどまでにピンポイントで胸を突いてくる。