エルフラメンコライヴ  フラメンコ音楽の競演 ギターは歌う

プリメラ企画エルフラメンコLIVE フラメンコ音楽の競演
3月12日(水)/東京(新宿)エルフラメンコ
【ギター】徳永健太郎/徳永康次郎/鈴木淳弘【ヴァイオリン】三木重人【パーカッション】容昌

フラメンコギターは歌う       

 静かに独白するように弾き始められたのはタランタ。心に一筋の光が射すのを感じる。

 徳永健太郎さんは、自身の心の底にあるものを確かめるようにじっくりとソロを奏でていく。中低音の充実した重みに心が静けさを取り戻す。その芯のある音には決意があった。彼はそれを直球で押しつけるようなことはしない。遠くへと放り投げ、それが聴く人の胸にきっちりと届く、そんな快さがあった。続いて弟である康次郎さんのソロによるグアヒーラ。心に羽が生えて自由に飛べるようなそんな軽やかさがある。兄の健太郎さんがパルマで支える。交わす笑顔がいい。限りなくリラックスさせてくれる音の連なりが、日常の思い煩いを吹き飛ばしてくれる。
 
 そして兄弟デュオによるブレリア、アレグリアスと続く。二人それぞれの個性を発揮しながら、兄弟ならではの呼吸で音楽を紡いでいく、伸びやかなアンサンブル。心の奥から沸き上る思いをストレートに指に伝え、音にしていく。情熱の中にも洗練を感じさせる二つの音色は、シンクロし、またハーモニーを形成し、絡み合いながら疾走し続ける。それは波動となって聴く人の気持ちをも昂揚させていく。これがソニケーテの快感なのだ。そしてこの音楽こそが「フラメンコの今」そのものなのだと気付いた。全身に新鮮な感動が降りて来た。
 
 健太郎さん22歳、そして康次郎さん20歳。この若きアーティストたちは、フラメンコギタリストである父、徳永武昭さん、そしてバイラオーラである母、小島正子さんのもとで、赤ん坊のころからフラメンコギターに親しみ、もの心がついたころには奏でていたという。彼らが10代半ばでフラメンコギターの道を志し、スペインへと渡ったのはごく自然な選択だったであろう。それぞれ日本フラメンコ協会新人公演奨励賞を受賞した実力派であり、現在は母校であるセビージャの音楽学院で講師を務め、スペインの人々にフラメンコを教えている。つまり彼らは、常に「現在のフラメンコ」の中で育って来た、次世代のフラメンコアーティストの象徴と言えるのではないか。これまでの世代の、ある程度大人になってからフラメンコに出会い、憧れを抱き、研鑽を積んで来た人々、そういった方たちが作り上げた豊かな土壌から生まれて来た、フラメンコの希望。若い感性で奏でる彼らのリアルフラメンコには繊細な煌めきがある。その成長の先に宿るドゥエンデを視たいと願う。
 
 鈴木淳弘さんのギターが鳴り響いた瞬間、乾いた風が大地を駆け抜ける、そんな光景が鮮やかに脳裏に広がった。メロディアスな音楽は色彩豊かで、眠っていた記憶を蘇らせてくれる。三木重人さんのすすり泣くようなジプシーヴァイオリンとのデュエットがいっそう深く郷愁を呼び覚ましていく。

 フラメンコギターには人生の哀歓が内包されている。言葉を持たないからこそ、そこから聞こえてくる歌がある。そんな深い世界に酔いしれた、忘れ難いひとときとなった。