大渕博光ピアノフラメンコユニット〝LS3〟ライヴ

大渕博光ピアノフラメンコユニット〝LS3〟ライヴ
2月28日(金)東京 自由が丘 ハイフン
【ヴォーカル】大渕博光【ピアノ/コーラス】斎藤タカヤ【ダンス/コーラス】やのちえみ

フラメンコの未来形           

「Este Amor!」大渕博光さんの甘く包容力のある声が空間を満たして行き、ラテンの熱いリズムと切ない旋律の波にたちまち心を捉えられる。洞窟を思わせる隠れ家的ライヴバーに、異国の薫りが漂う濃厚な時間が流れ出す。

『LS3』は、フラメンコの枠を超えて幅広く活動されているカンタオール、大渕博光さんの呼び掛けによって、日本を代表するサルサ・バンド、オルケスタ・デ・ラ・ルスのピアニストとしても活躍されている斎藤タカヤさん、そしてキュートな魅力のバイラオーラ、やのちえみさんの3人で結成された、ピアノフラメンコユニット。
 
 彼らの深い音楽性に裏打ちされたレパートリーの豊かさに驚かされる。懐かしさが滲む大渕さんオリジナルのカンシオンはもとより、カバー曲も実に多彩。スティングの『Fragile』はラテンのテイストをまとい、映画「ベンゴ」の『Naci en Alamo』はヒターノの乾いた哀愁を伝える。ドランテスの『Orobroy』には斎藤タカヤさんのクレバーで繊細なピアニズムが溢れ、大渕さんのソフトな声で歌われるジャジーな『Verde』にはクールな哀しみが宿る。キューバの音楽スタイル、ダンソンで踊られた、やのちえみさんのガロティンには上品な粋がある。そうした一方で、後半に奏でられたソレア・ポル・ブレリアやグアヒーラでは、ピアノ、カンテ、バイレが新鮮な三位一体を為し、洗練された音の中にも骨太のフラメンコの存在を感じさせる。それは大渕博光さんがカンタオールとして土台に築き上げているコンパスそのもの。そしてその核があるからこそ恐れることなくそこから無限の音楽世界へと自由に飛び立っていけるのだと感じた。
 
 斎藤タカヤさんは、自らのピアノにフラメンコのコンパスを柔軟に取り入れ、形式を守りつつ、その行間にラテンの情感を自在に注ぎ込む。フラメンコと同じ12拍子を持つモロッコ音楽に惹かれ、フランス近代音楽を好むという斎藤さんのフラメンコピアノには、エキゾティックな揺らぎとラヴェルのような気品のあるなまめかしさが宿っていた。
 
 やのちえみさんのMCが興味深かった。結成当初は、ギター無しのピアノだけで踊るということには、やはり違和感があったという。アタックの感覚、音の長さがまるで違う。リハーサルの中で、足りない音、必要な音をその都度ピアノに伝えて行った。その過程でフラメンコ音楽の本質が、改めて浮き彫りになっていったそうだ。また、グアヒーラやルンバなどを、キューバ民族音楽の観点から捉えた時、同じスペイン語圏の音楽でありながら、相違点があることも実感できた。そんな発見の連続だったという。
 
 キューバ、モロッコ、フランス……。様々な国との歴史的なつながりを意識していくことで、そこに通底するフラメンコは深まり、その色彩はさらに豊かになっていく。結成3年目となる今年は、本格的なタブラオでの活動も予定されているという。フラメンコを中心軸とする『LS3』の深化の未来は、フラメンコ音楽のポテンシャルを鮮やかに示してくれることだろう。