ソフロ二ツキーのスクリャービン

ウラジーミル・ソフロニツキーが演奏するスクリャービンの『練習曲』を最近よく聴いている。1960年のモスクワでのライヴ演奏。スクリャービン自身も好んでよく弾いていたという名曲「作品8−12」は、ホロヴィッツのライヴ映像でも何度も聴いていたが、これほど悲愴な曲だとは思っていなかった。そして「作品42−5」にそれ以上の重苦しさを感じる。カオスの中に時おり射す一筋の光。それは一瞬の救い。しかしそれもつかの間、暗い焦燥感に掻き消されていく……。重厚なロシアピアニズムをこれまで感傷的に捉え過ぎていたことに気付かされる。何者かと闘うための荒々しいほどの激しさ、けれどそれは知性に支えられているもの。悲哀というよりも苦悩。壮大なロシアで生き抜いていく孤独の深さ。平穏の中に暮らす私などには到底実感できないもの。けれどそういった世界が在るということを常に想像する心を持ち続けていたい。理解することを渇望しながらスクリャービンの神秘的な音の世界に浸りたい。

スクリャービン自身の演奏による『練習曲嬰ニ短調作品8−12』)
http://www.youtube.com/watch?v=VK2uTtuI84w&feature=player_detailpage
ソフロニツキーの演奏による『練習曲嬰ハ短調作品42−5』
http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=zBWYKrTCD08

ロシア・ピアニズム名盤選-17 伝説のスクリャービン・リサイタル(1960年2月2日)

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