「驟雨」吉行淳之介、この文字の並びを見ただけで、全身の湿度が上がるような心地になる。そして何か込み上げてくるものがある。雨が降り始めた夕暮れ、いったんは見送った後姿をためらいつつ追いかけてそっと傘を差し出す光景を思い浮かべる。自分の記憶と他の女性の幻想が入り交じる。吉行淳之介の本は出ている文庫はすべて買ったと思う。絶版になっているものは古本を探し求めた。そんな時期があった。せめて20年早く生まれたかった。宮城まり子と絶対争っただろう。ばかばかしいと苦笑しながらも、そんな妄想すら本気で抱く。そんな作家の存在を知ったことを幸せに思う。今年は没後20年である。