アルマフラメンカ リサイタル

アルマフラメンカ リサイタル COMPADRE〜親友〜
9月21日(日)/東京 新宿明治安田生命ホール
【バイレ】三枝雄輔/SIROCO【カンテ】アントニオ・ビジャール【ギター】徳永健太郎/徳永康次郎/カルロス・オルガス【パルマ】福島隆児【カホンIKKI【ピアノ】アドルフォ・デルガド

ふたりの若き救世主      

「信じることの美しさ。フラメンコを信じること。フラメンコの神様がいるとしたら、これこそが救われるための道となる。そのことを、僕らは多くの人たちに伝えていかなければならない」。SIROCOこと黒田紘登が、ファン・デ・ファンらマエストロたちに学んだ信念。そして彼は三枝雄輔と共に「フラメンコに対する敬意と憧れを形にしたい」という想いで、アルマフラメンカのユニットを立ち上げ、2013年から全国ツアーをスタートさせます。そして何と頼もしく、身をもってそれを示してくれたことでしょう。
 
 昨年に引き続いて開催された夏の全国ツアーは、約3か月で30か所以上を回るもの。私が観た舞台はそのメインでありクライマックスと言える東京公演。ハードスケジュールをこなし、全国各地約40名のフラメンコアーティストたちとの競演を重ねて来たSIROKOと三枝は、戦友ともいえる友情の絆を深めていました。そして共に全身から余計な力が抜け、その分、充実したエネルギーに満たされていました。特に、徳永健太郎、康次郎兄弟のギターオリジナル曲『Liberacion』とのコラボレートは圧巻でした。包容力を感じさせるタメ、爆発力を秘めながらもそれを制御していくスリリングな間合い、そしてペソのある静から野性味のある動へなだれ込む迫力に一気に引き込まれていきます。最高潮に達してもすべてをさらけ出さない余裕の笑顔に男の美学が感じられます。クールに抑制されたバイレは、徳永兄弟の繊細でスタイリッシュなギターを際立たせる。ダイナミックに統制された抑揚のある舞台に、絶妙なハレオが飛び交う。男の薫りに満たされた堂々たるフラメンコに酔いしれました。

 アルマフラメンカは、新しい時代を牽引していく旬のフラメンコでありながら、その姿勢は間違いなく、普遍の王道を歩む重量級のフラメンコです。
 
 SIROCOが2011年に新人公演奨励賞を受賞した時の鮮烈な踊りが記憶に残っています。超絶技巧を駆使した見事なサパテアードには黒光りするナイフのような鋭さがありました。テクニックを披露するだけで自己完結してしまうことは若い頃にはありがちです。年を取ってもそこから抜けられないということも往々にしてある。けれど、SIROCOそして三枝雄輔は器が違いました。愛情は自分にではなく、フラメンコに向けられていた。賞レースからわずか数年で、フラメンコに守ってもらうのではなくフラメンコを守り、さらに広げていく道を選びます。そしてツアーによって全国に点在しているフラメンコに光を当て、それをつなげる一方で、スペイン本場の名アーティストの招聘活動を通して高みを見せてくれる。彼らの、日本のフラメンコ界全体のモチベーションを上げてくれる現在進行形の功績は計り知れません。
 
 フラメンコを愛する者はフラメンコでその愛を昇華させなければ、いつまでも救われない。彼らは後ろ姿でそう語っているのではないでしょうか。