平富恵スペイン舞踊25周年記念公演 Zodiac 〜星は語る〜

星座の物語をテーマとした優雅な舞踊。その根底に秘められた死生観が、奥行きのあるフラメンコの舞台を創り上げていました。
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平富恵スペイン舞踊生活25周年記念公演
Zodiac  ゾディアック 〜星は語る〜
11月7日(金)/東京(大手町)日経ホール
【バイレ】平富恵/ルイス・オルテガ/ハビエル・サンチェス/アンドイッツ・ルイバル/永田健/ローリー・ドワイヤー/秦史乃/増野恵美子/北島ナディア/瀬戸口琴葉/(平富恵スペイン舞踊団)山田美貴子/稲葉由希子/平尾華子/岡田和緒子/神谷雅子/川島あい/脇川愛/戸谷紀子/秋山千草【カンテ】マリア・デル・マル・フェルナンデス【ギター】ダビ・ドゥラン・ヒル/片桐勝彦【パーカッション】すがえつのり【チェロ】今泉文希
 
 華やぎのある大河の流れ、その根底には哲学がある。まさに経験の重みが生かされた舞踊生活25周年記念にふさわしい舞台でした。
 
 伝統的占星学における12宮星座の物語は、存在の死生観を表しているそうです。宇宙に散らばっていた物質が集まって星となり軌道を構成し、爆発によって死を迎える。その欠片はまたどこかで出会い結びついていく。その繰り返しはまさにフラメンコの姿と重なります。インドから長い時を経て伝わり民族や宗教が混在するスペインで開花し、さらに世界に散らばって新たな命を吹き込まれ深化していく舞踊。それは人の一生にも通じるものがある。

「星は語る」と名付けられた舞台は、12星座の物語一つひとつに色彩豊かな舞踊が振付けられた永遠の組曲。冒頭の「おひつじ座」は天地創造の物語。ギリシャ神話のような衣裳をまとった女性たちの行進はやがて軌道のサークルを描く。それはかつてニジンスキーが踊った『牧神の午後』のニンフたちを思わせ、意識はいにしえの時に引き込まれて行きます。そして天の川を仰ぎ見、輝く星をみつけ、星座を辿るように、ソロ、パレハ、群舞が鮮やかに散りばめられていく。伝統的スペイン舞踊、フラメンコ、アルゼンチンタンゴをモチーフとしたモダン舞踊などが流れるように配置されたプログラムには時間の奥行きと空間の広がりがある。この創造的な舞台から強烈に伝わって来たものは、プリミティブでシンプルな舞踊の力。平さんがこれまでのリサイタルで試行錯誤を重ねながら辿り着いた境地でした。そして、大胆な発想力はもとより、音楽、構成、衣裳すべてにおいて彼女の磨き抜かれたセンスが行き届いており、演出家としてのスケールの大きさも伺えました。

「二度と同じ人生を歩めないからこそ、『生きたい』という気持ちを込めてこの作品を創りました」と平富恵さんは語っています。遥かなる天体の営みに人生を見出し、それをフラメンコの精神に注いで体現する。そしてその核心にあるものを自らの内側に取り入れ強さを身につけて来た、そんな彼女の姿勢が舞台から伝わり、観る人に勇気を与えてくれます。三人の実力派スペイン人バイラオールに囲まれてなお、ひときわ輝きを放つ美貌のバイラオーラ平富恵さんは、今この瞬間に咲き誇っているように見えながら未だ開き切ってはいない、地中深くに根を張り続ける大輪の花であり、これからさらに洗練されていく彼女のフラメンコを私は見たいと願うのです。