漱石命日

(引用)「それでも私はまだ私に対して全く色気を取り除き得る程度に達していなかった。嘘を吐いて世間を欺く程の衒気がないにしても、もっと卑しい所、もっと悪い所、もっと面目を失するような自分の欠点を、つい発表しずにしまった」

 夏目漱石が48歳の時に綴った随筆『硝子戸の中』最終章の一文。文豪といわれる大作家にして、晩年にいたってなお内面をさらけ出せないことに葛藤していたのだと想像すると感慨深いものがある。それでもその後に、「然し私自身は今その不快の上に跨って、一般の人類をひろく見渡しながら微笑みしているのである」と達観した言葉が綴られているところにやはり人間の大きさを感じる。この随筆を連載した翌年、漱石胃潰瘍により49歳という若さで死去。

 叶ったこと、叶わなかったことを思い浮かべながら、それでも微笑みながら私は死に向かえるだろうか。それを自分に問い掛けながら生きたい。そんなことをふと思う。
 
 年が明けたら私は、漱石がこの随筆を書いた時の齢と同じになる。だからここに書かれている言葉がいっそう身に沁みるようになっているのかも知れません。

 今日12月9日は夏目漱石の命日。