アルテイソレラ『道成寺』

アルテイソレラ『道成寺』。鍵田真由美さんの祈りのフラメンコは、女性たちの情念を浄化させてくれるのです。
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鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団公演/
道成寺
11月21日(金)/東京 日本橋公会堂
【バイレ】(清姫)鍵田真由美/権弓美/矢野吉峰/松田知也/関翎光/東陽子/工藤朋子/末木三四郎/柴崎沙里/小西みと/関祐三子/坂口真弓/鈴木百々子/美山琴里【真笛・筝】山口幹文【和太鼓】(安珍斎藤栄一/金子竜太郎【奄美大島民謡】里アンナ【三味線】中田誠【筝】山野安珠美【篠笛・胡弓・音楽監督】吉井盛悟【演出・振付】佐藤浩希               
 
 鍵田真由美さんの姿には、生贄に選ばれた巫女のような凛とした凄絶さがありました。深い包容力で女たちの情念を一身に受け止め、それを祈りにも似た舞踊で昇華していくのです。

道成寺』のもととなった『安珍清姫伝説』。大蛇となった清姫が、自分を裏切った安珍を、逃げ隠れていた鐘もろともに焼き殺したという伝説はおどろおどろしいものを感じさせますが、鍵田さんの一途な舞踊は清姫の心を掬い上げ、少女の純粋性を浮かび上がらせるのです。浄瑠璃の人形を思わせる憂いのある表情と、柔軟性を駆使したしなやかな舞いが伝えるのは、開花し切れない蕾に秘められた情熱。届かぬ狂おしい想いは全身を貫き、我が身を大蛇に変えてしまうほどの怨念となっていく。バタ・デ・コーラの長さにもそれは象徴されます。後ろに引かれる長い長い純白の裾は、恋しい安珍の心だけを追い求めて白蛇と化してしまう清姫の哀れな執念そのものでした。私は舞台を観ていたというより、鍵田さん演じる清姫の心と同化し、恋の痛みを内側から感じている、そんな夢を見ていたような気がします。泣きながら目覚めた時、心の傷が浄化されていた、そんな記憶がよみがえっていました。
 
 音楽陣も素晴らしい。民謡界、邦楽界、和の様々なジャンルから集結した実力派アーティストたちの競演は、舞踊と互角に溶け合っていました。伝統を踏まえつつ?今?の音を創っていこうとする彼らの誇りと心意気は、前衛的な閃きのあるスリリングな音楽を生み出し、その響きは「道成寺伝説」の魂を現代へと鮮やかにつなげていました。
 
 千秋楽のカーテンコール。佐藤浩希さんの、歓びと淋しさが入り交じりながらも、何か突き抜けたような笑顔が忘れられません。「人間の本質にある醜さをも芸術として美しく描く、それがフラメンコ」。自身の抱く理想にさらに一歩近づけた手応え、そんな充実感が溢れ出ていました。
 
 アーティストたちとの幸福な出会いから生まれるインスピレーションを大切にして、数々の名作を創り上げ再演を重ねて来たアルテイソレラ。今回の新生『道成寺』には、多彩な経験を経て、巡り巡って行き着いたシンプルな原点というものを感じました。豊かな蓄積を背景にした爽やかな原点回帰。アルテイソレラの飽く無き挑戦に胸が高鳴り続けます