「カディスの赤い星ギターコンサート」

第7回「カディスの赤い星ギターコンサート」
7/19(日)草月ホール

ジャンルを超えた、最高峰のギター演奏の数々を、親しみをもって堪能することができました。

第一部クラシック。国際的に活躍するギタリスト、福田進一さんのバッハから始まる。チェロソナタ第一番プレリュード、そして第三番プレリュード。格調高く深遠な音楽が、ギターの音色によって静かな繊細さを帯び、柔らかく心に沁みてくる。
音楽の原点がここにある。バッハ音楽を最初に聴くことで、クラシックとフラメンコというジャンル、新旧という時代、そしてスペインと日本という国境といった壁を自由に超える意識を得られた。このコンサートシリーズの楽しみはここにこそある。
福田進一さんと沖仁さんとの「火祭りの踊り」が圧巻。先日、同じ曲を福田進一さんと大萩康司さんとの素晴らしいデュオで聴いたばかりなのだが、そこでは厳密に築き上げられたアンサンブル、その一糸乱れぬディナーミクの鋭い推進力に惹き込まれた。今回、このスペインの名曲に沖さんによるフラメンコの揺れが入ることによって、予測不能な魔力が生まれ、そのスリルに陶酔した。ファリャの奥深さを感じた。そしてこれがスペイン音楽の寛容性なのだろう。

第二部フラメンコ。徳永健太郎さん、康次郎さん兄弟の登場。スペインから帰国して間もないこの大舞台にまったく臆することなく、リラックスした表情で超絶技巧のフラメンコを聴かせる。中学卒業直後にスペインに渡り修行し、本国で講師まで務めた彼らの音楽は、フラメンコの今そのものを伝えるものだ。爽快な若さが漲るフラメンコ。だがそれだけではなく、彼らの軽やかなフラメンコの中には、思春期に人知れずスペインで苦労した哀しみが宿る。その翳りが聴く人の心を掴む。「トークはまだまだで」と自嘲する彼らの素直な言葉は、つたないけれど、等身大のはにかみと潔さがあり、とても好感が持てた。これからステージでの言葉を磨き、エンターテイメント性を身につけたとき、彼らはさらに大きく活躍の場を広げていくだろう。

トークといえば、逢坂剛さんと福田進一さんの絶妙なやりとりは、フラメンコ的即興といえる面白さで、おおいに笑った。

彼らの父親、徳永武昭さんも登場し、70年代のオーソドックスなソレアを披露。フラメンコの骨格がそこにあった。そして親子トリオで武昭さんオリジナルのモチーフを基にしたブレリアを弾く。フラメンコが内包する郷愁の味わいが若い世代に受け継がれていることを知る。

プログラムのラストを飾るのは、沖仁さんと徳永兄弟によるトリオ。今回初の共演にあたって、沖さんがこの日のために作曲したという。徳永兄弟に捧げた曲のタイトルはずばり「エルマノス(兄弟)」。同じ道をゆく年下の同志への最高のエールとなることだろう。

自由自在に世界を行き来できる時代。それだからこそ、ローカルの歴史文化の深さをそれぞれに愛し、また互いに理解し尊重しあう。簡単なことではないかもしれないけれど、それはワクワクするような楽しさに満ちたことなんだと気付かせてくれたコンサートでした。