ディエゴ・ゴメス ソロライヴ

パセオフラメンコライヴ Vol.009
9月24日(木) 於:高円寺エスペランサ
出演:
ディエゴ・ゴメス(カンテ)
エミリオ・マジャ(ギター)
野口杏梨(ピアノ)
森田志保(バイレ)
阿部真(パルマ、コーラス、通訳)

愛の優しさが深く心に沁み込んでくる。ディエゴ・ゴメスののびやかな歌声を思い出すたびに、今も胸が甘く締め付けられる。孤独、喪失、切なさが深まるほど、人は限りなく優しくなれるのかも知れない。誰もが哀しみを抱えるからこそ、信じ合おうとするのかも知れない。ディエゴの純粋な笑顔の奥にそんな繊細な想いが秘められていることを感じる。だからこそ誰もが彼のカンテに癒される。彼の素晴らしい歌の技巧は、自我を主張するものではなく、どこまでもフラメンコに捧げられている。それゆえ、ごく自然にフラメンコに内在する郷愁が色濃く浮かび上がってくる。
この夜、「アンダルシアの風景」というテーマで、ディエゴが水先案内人となって歌い上げた8つの曲を聴きながら、誰もが、それぞれの故郷に引き戻され、そこに佇んでいるような思いに駆られていたことだろう。

野口杏梨さんのピアノは奥行きのあるフラメンコを聴かせてくれた。単に表面的なフラメンコの形式をなぞるのではなく、彼女が見据えていたのは、フラメンコの核心に在る、間と対話であった。学生時代にスクリャービンを弾き、ラヴェルを好んだという彼女の持つ音は、神秘的であでやかな漆黒の色をしている。洗練された硬質さを見せながら、相手の思いを探り、引き出し、そこに自らを委ねていく柔軟さがある。その感度の高さがフラメンコを引き寄せ、出会いに至ったのだろう。「夜のガスパール」の「絞首台」を思わせる和音が鳴り、その沈んでいくような残響を、ディエゴ・ゴメスが歌で引き継いでいく。シックな余韻にときめく。

森田志保さんは柔らかな感性で、幻想の華となり、ディエゴの歌の世界に奥行きと広がりの色彩を与える。

舞台に立つ者同士、互いの呼吸のみならず、観客の息遣いまでもを感じ取り、受け入れながら、時間の流れと共に、めくるめく創り上げられていくフラメンコの光景。舞台が進むにつれて、限りなくのびやかに、しなやかに、強さを増していくディエゴのメリスマ。

ただ陶酔していた。そして気付いた。
フラメンコのカンテとは、なんて自由なんだろう、と。