冬の旅

積み重ねと
選択の繰り返しによって
今ここにいる。
道程は死ぬまで続く。
どんなに景色が変わろうと
この道はどこまでも1本しかないのだから
愛おしみながら歩こう。

吉行淳之介の言葉に

「私」というものの内部にどこまでも潜り込んでゆき、
ついにはポッカリと広々とした普遍の世界へ
突き抜けることのできる・・・・・・

という一文があり、
そうなれるとは思わないけれど
もしかしたらそこに辿り着けるかもしれないと
望みが持てるような
希少な時間が与えられていると感じている。

ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの歌う
シューベルトの歌曲「冬の旅」を
近ごろよく聴いている。
学生のころ好きになって
胸の内で大切にしてきた歌。

慌ただしい日々の中で置き忘れたように
遠ざかっていた時期もあるけれど
今また、沁み込むように流れ込んでくる。

「旅に出る時節などを
私は選りごのみしているわけにはゆかない。
この暗い夜の中に
自分の道を求めなければならない」(Gute Nacht)

ミュラーの放浪の詩を
遠い芸術としてではなく
身に沁みて味わえるのは
幸せなことだ。