アルテイソレラ desnudo Vol.14 〜我々はどこへ〜

「アートというものは、魂の救済などしてくれない。癒してはくれない。

真のアートとは、永遠の孤独を教えてくれるもの。生死を突きつけてくるもの。

そこに気付いた時に、本当に救われた」

 

以前、佐藤浩希にインタビューした時の、彼の言葉が鮮やかに蘇ってきた。

アルテイソレラの舞台を観る度に、胸を強く打たれるのは、

彼らによって創られる時間芸術が、

単に憩いのひとときのためのものではなく、

生きていくことそのものの重みに匹敵するアートだから、と気付いた。

鍵田真由美のペテネーラには静かなドラマがあった。

すべてを捨てて愛を貫いた女が、裏切られ、死に至る悲劇。

激しい歌も、鍵田の豊かな身体能力による狂おしい踊りもあったのに、

静謐な記憶が残るのは、美しい能の表情を鍵田が宿しているからだ。

自ら選んだ道ゆえに、捨てたものも失ったものも振り返らない。

愛の渦に巻き込まれ、消滅していくのみ。

鍵田は表情を変えることなく舞いに没頭していく。

全身で泣いている。吉井盛悟による胡弓と篠笛が、鍵田の哀しみにシンクロしていく。

鍵田の黒目がちの瞳に浮かぶ澄んだ光が一途な心を象徴する。

この光の奥にあるものを知りたくて、

私は鍵田真由美の踊りを見続けていくのだとおもう。

それは、自分自身の深層心理を探っていく旅に似ているともおもう。

ラストの「我々はどこへ」と題された舞踊は、

生きていく意味を問い掛ける壮大なコンテンポラリー・フラメンコだった。

フラメンコという形式はとうに超えていた。ボーダーを守る意味など無いのかも知れない。

鍵田は、大きな白いマントンで自らを包み登場する。

それを広げていく姿は、翼を広げるイカロスのようにも見える。

その翼を、脱皮するように捨て去る。

等身大の姿となり、却って自由になっていくのを感じた。

余計なものはいらない。原点に戻る、ということを考えさせられる。

古代ギリシャ神話を彷彿とさせる衣裳をまとった男女たちの群舞。

鍵田は、巫女であり女神であり、生け贄だった。

踊ることに、身を削るどころか、すべてを捧げる鍵田のなんと神々しいことか。

群舞も音楽も、彼女を全霊で支えていた。

ヴォーカル、ピアノ、胡弓、篠笛、フラメンコギター、カンテ。

ボーダーなど無いに等しいのに、圧倒的な統一感があったのは、

それぞれの楽器が強烈な主張をしながらも、

身を尽くした鍵田の祈りに限りなく重なろうとする想いが束ねられていたからだと感じた。

広く露出された、鍵田の美しい背中が目に焼き付いている。

ひとつひとつの筋肉の躍動が視えるほど舞踊で鍛え抜かれた背中。

感情を抑えた美しい能の表情を保ったまま、

鍵田は、背中で愛の歓びと哀しみの涙を流しているのを知った。

吉井盛悟のむせび泣くような胡弓、そして、歌い、震え、囁くようにかすれる篠笛は絶品だった。

憂いに満ちた音楽は鍵田に深く寄り添うことで、心情の起伏をより繊細に引き出し際立たせていた。

奥本めぐみによるカンテは、新鮮な勢いを舞台にもたらした。

すでにジャズヴォーカリスト、シンガーソングライターとして活躍する実力派歌手の歌声は、

艶のあるのびやかな声量と確かな技量で、

フラメンコの歌心をストレートに観客に伝えていた。

彼女の存在は確実にカンテに新しい波をもたらすだろう。

90分という時間を感じさせないプログラム。

ペテネーラに始まり、カーニャ、セラーナと土の薫りのするような荘厳なフラメンコ、

そして、チャップリンを彷彿とさせる可笑しみに溢れたタンギージョ・デ・カディス、カンティーニャスを交え、

「デスヌード」シリーズにふさわしい、

ドラマティックな創作舞踊的フラメンコにより、クレッシェンドの極みで締める。

スリリング且つ的確なキャスティングと、

未来への希望を感じさせる俯瞰力による演出に、

佐藤浩希の潔い生き方が反映されていた。

「そして芸術の上での真のコミュニケーションとは、

そういった互いの絶対的な孤独を理解し合って初めて響き合うものだと思う」

佐藤浩希のそんな言葉も思い出す。

まず自分自身を全開にする勇気を持つことだ。

そこからすべてが始まるということに気付かせてくれた。

desnudo Flamenco Live Vol.14

〜我々はどこへ〜

3月15日(火)

ムジカーザ代々木上原

演出・振付 佐藤浩

音楽監督  中島千絵

【出演】

鍵田真由美

佐藤浩

【ミュージシャン】

中島千絵(作詞・作曲、ピアノ、ヴォーカル)

吉井盛悟(胡弓・篠笛)

大儀見元(パーカッション)

斎藤誠(フラメンコギター)

マレーナ・イーホ(フラメンコギター)

奥本めぐみ(カンテ)

マヌエル・デ・ラ・マレーナ(カンテ)

【バイレ】

矢野吉峰・末木三四郎東陽子・工藤朋子

パルマ

小西みと・関祐三子