アルテイソレラ「一炊ノ夢」

アルテイソレラ「一炊ノ夢」、
無意識の狂気を自覚せずにはいられない、
そんな心情を引き摺りだされた。
暮らしの中では誰もが、狂気と正気の振り幅の間を
何とかバランスを取って生きているのだ。
眠りの中で自我の地平を独り彷徨う鍵田真由美さんは
やがて、無意識の中に抑え込まれていた幻想に
踏み込んでいく。
そして、彼女の経験と憧憬が入り交じった、
無国籍で極彩色の絵巻が展開されていく。

そのシュールな光景は、一場面ごとに、観客の潜在意識に入り込み、
それをかき混ぜ、いやおうなく何かを捉え、結びつき、
見たかったものも見たくなかったものも、引き出してしまう。

金襴緞子の和服の衣裳に身を包んだ鍵田さんは、花嫁だろうか。
(鍵田さんの着物姿は、本当に博多人形のようで美しくて哀しい)
憂いに満ちた瞳で佇む鍵田さんを、群舞の男たちはさらおうとする。
群舞の鮮やかな朱色の衣裳を着けた女たちは、
金魚の尾のように付きまとい、突然、笑い声を上げる。
狂気に振りきった声。女たちの笑い声は止まらない。
いかなる感情も、極まった先は笑いとなってしまうのではなかったか。
その笑いは、花嫁の自我の不安なのか、哀しみなのか、
または初夜の悦楽なのか、
他者の祝福なのか、羨望なのか、嫉妬なのか、
または何も知らない花嫁への嘲笑なのか。
かつて、白無垢と打掛を羽織った、遠い頃の記憶が引き起こされる。
鍵田さんの表情は、美しい能面の陰翳を宿したままで、
それゆえにいっそう心情が際立っていく。

観た人たち、かかわった人たち、すべての人の深層心理に迫る舞台だった。
多彩なジャンルのアートとのインスピレーションで舞台を創り上げて来た
アルテイソレラの、ひとつの集大成であり、
またここからそれぞれに何かを生み出していく起点となる
新たな始まりの舞台となった。

アルテイソレラ
鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団
「一炊ノ夢」
日本橋公会堂 
2016年9月9日 19時の部