アントニオ・ガデス舞踊団『血の婚礼』

ロルカの、実話をもとにした戯曲を
極限まで削ぎ落とし、
その魂を抽出したような舞踊劇。
ロルカの紡ぎ出した言葉を
難しく解釈しようとする必要などない。
美しい緊迫に満ちた、わずか40分間のスペイン舞踊の世界に
心を委ね、ただ感じるだけでいい。
アントニオ・ガデス
なんという舞台を遺していってくれたのだろう!

官能の悦楽、渇望、誘惑、
生む性の抑圧、束縛、道徳、
刹那の歓喜と保守の枷の狭間で、
女は永遠に苦悩を抱え、
男は翻弄されるのだろう。

刹那の快楽は不安に命を縮め、
安定にすがろうとすれば、
心は生きながら死ぬだろう。
両方を追い求めようとしたら
破滅である。

時代がいかに進化しようと、否、進化すればするほど、
根本的な人間のサガが原始のままである限り、
この矛盾はいっそう深く浮き彫りになっていくだけ。

だから、行き場のない葛藤の悲劇を捉えたロルカの世界は、
いつの時代も新鮮で在り得る。

87年の、ガデスが主演した『血の婚礼』日本初演
忘れられないが、
それから約30年を経て、私自身も齢を重ねたいま、
新生ガデス舞踊団による『血の婚礼』の悲劇からは、
あの時以上に、ロルカの思想が痛いほど伝わって来て
仕方がないのだ。

アントニオ・ガデスが、
このロルカの戯曲を、言葉を通してではなく、
感性に訴えかける舞台芸術に創り上げることができたのは、
ガデス自身がこの思想を単に言葉で学んだのではなく、
貧しさゆえに、子供のころから世間と闘い、その中で、
心身に叩き込んで来たからだろう。

その哲学と美学を継承する、アントニオ・ガデス舞踊団の
存在意義は大きい。
彼らの果てしない挑戦に、心からの拍手を!

アントニオ・ガデス舞踊団2016
9/17(土)17:00 Bunkamura オーチャードホール
Aプログラム「血の婚礼」「フラメンコ組曲