マリア・パヘス、シディ・ラルビ・シェルカウイ『DUNAS』

マリア・パヘスとシディ・ラルビ・シェルカウイの『DUNAS』、素晴らしかった。

なんという大きな世界観。
マリアとラルビの思想は人間愛に根差されているがゆえにストレートに胸に入って来る。
否、内側に向くのではない、真に人間愛を知る時、想いは翼を得てどこまでも放たれていくのだ。
ラルビが描いていく絵がスクリーンに映し出され、マリアの身体の動きと一体化していく。
マリアの長い腕がスッと差し出された先に枝がスッと描かれる。そうして何本もの枝が描かれ、伸び、大地から生え広がる樹となっていく。人の想いはどこまでも伸びてゆくのだと、溢れるがままに高みを目指してよいのだと、ラルビの自由で寛容な発想と対話するかのように、パヘスは身体を通して想いを解放させてゆく。その姿のなんと爽快なことか。

ラルビは砂上に描き続ける。人間はアダムとイブの出会いから進化しつつも、やがては誰もが十字架に象徴される死を迎える、その繰り返しの中でなぜテロ、戦争などの愚かしい行為に走り死に急ぐのか。人との愛をなぜ信じることができないのか。

底知れぬ怒りを秘めたパヘスの重厚なフラメンコに、ラルビは柔軟性と果て無い優しさを込めたアクロバティックな舞踊で寄り添う。そのパレハはシュールに調和していき、やがてパヘスは口元に柔らかな笑みを浮かべる。そこに深い安堵が生まれ、希望の光が射す。

気の遠くなるような時間と広大さを持つ厳しい砂漠のような世界で、互いに響き合える感性を持つ人との出会いは奇跡であり、生きる上での最高の歓びではないか。
変化しながら永遠に在り続ける砂漠の姿は人間の営みそのものであり、またその砂粒ひとつひとつが私たちひとりひとりでもあることパヘスとラルビの『DUNAS』は気付かせてくれる。

国も性別もジャンルをも超えたパヘスとラルビとの邂逅、対話、共感、融合。
ふたりは抱擁しひとつのシルエットとなり、舞台を覆う一面の布に表される砂漠の中に溶けていく。
「すべての人々は兄弟となる」
かつてベートーヴェンが第9で謳い上げた理想郷が黄金色に静かに広がっていた。

2018年3/29(木)〜31(土)
Bunkamuraオーチャードホール