故吉田秀和さんの言葉「バッハは邪魔しなかったな・・・」

「バッハは、邪魔しなかったな・・・」

暮らしの中で手を動かしながら、例えば、食事の支度、洗いもの、掃除などをこなす中で聴きたくなる音楽がある。様々なものを聴くが、今それはバッハに求めることが多い。

グールドの弾く『フーガの技法』を聴きながらふと思い出した言葉。今突然に思い出したのではなく、ずっと胸の底に沈んでいた言葉だと感じる。

「バッハは、邪魔しなかったな・・・」
敬愛する音楽評論家の故吉田秀和さんの言葉だ。
最愛の奥様を亡くして、一時音楽を聴くことから遠ざかり、それでも寂しくなって少しずつ音楽を聴き始めた時、どの音楽も主張があり過ぎる中で、バッハだけにそれを感じたのだと。

そんな存在が、私も好きなのであり、そしてそういう存在になりたいのかも知れない。

自分が自ら選び、想いを込めてやり続けることが、決して声高ではなく、邪魔にならず、そして必要とされるものに。

この言葉は、2007年7月にNHKで放映された『吉田秀和の軌跡』でのインタビューシーンで語られた言葉だ。

インタビュアーをされた作家の堀江敏幸さんが引き出した言葉だった。
この時に堀江敏幸さんの存在を知り、読み始めたことも思い出す。
彼の、人の心のひだによりそうような繊細で強靭な文章もずっと好きでいる。