石井智子 現代舞踊公演 魂のDance in Tokyo「グラナダ―ロルカ―」

ロルカの詩の世界が濃厚に薫るようだった。

今回50回目を迎えた「都民芸術フェスティバル」。その中の現代舞踊公演では毎年3人の振付家の作品が紹介されており、そこに昨年文化庁芸術祭大賞を受賞した石井智子が名を連ねた。石井がこの舞台に選んだのは「ロルカ」。彼女が2013年から2016年に掛けて創作したロルカ3部作から4曲を抜粋、アレンジした。

約30分間弱の制約された上演時間での舞台は、単なるダイジェストではなかった。吟味し、より磨かれたことで完成度の高い作品となり、ロルカのフラメンコへの眼差しが伝わって来た。
第2景の「月よ、月よのロマンセ」が印象深い。死すべき運命を背負った月、その月をみつめる子供は、死の世界へとさらわれていく。青白い月を踊る石井は息をのむほど美しい。子供は岩崎蒼生。少年の面差しを残しながらも、美しいものに惹かれていく大人びた情感に胸を突かれた。ごく自然なコンパス感とクールな繊細さを持つ独特の存在感がある。月と子供、様々に幻想を投影できるのがロルカの奥行きであり、それを戦慄と切なさを滲ませる踊りに表現した石井の感性に惹き込まれた。第1景ではロルカの愛したロマたちの風景を大人や子供たちが賑やかに舞う。心から楽しんで踊る子供たちの姿がフラメンコの未来を予感させて頼もしい。第4景ではジャスミンと雄牛をモチーフに平和と闘争をファルーカで描いた。昏いロルカの詩に石井智子の演出は希望の光を射す。幾度も舞台に乗せ、観客に問うことで、作品は育っていく。それは問われる側も同じなのだろう。

現代舞踊の他の2作品も、モダンバレエ界を代表する菊地尚子、野坂公夫、坂本信子の振付による、躍動感に満ちた見応えのあるものだった。様々な舞台芸術愛好家が集う東京芸術劇場において、陰翳の深いフラメンコが観客たちの心を響かせる意義は明るくて、大きい。
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2018 都民芸術フェスティバル
現代舞踊公演 魂のDance in Tokyo/石井智子「グラナダロルカ―」
2018年3月15日(木)・3月16日(金)
東京芸術劇場プレイハウス