荻野リサ ソロライヴ vol.4

荻野リサ ソロライヴ vol.4
2月19日(水) エル・フラメンコ

「芳醇なフラメンコ」

豊かで芳しいフラメンコだった。
彼女が全身で描く、美しくしなやかな曲線は、
スペインの乾いた大地にどっしりと根をおろし、
蔓を幾重にも絡ませながら伸びる葡萄の木のようであり、
彼女が放つアイレは、その豊かな果実をじっくりと熟成させた
赤ワインのような豊潤さと華やぎを漂わせており、
その微笑みから目が離せない。

音楽はスペイン人のみ。
マヌエル・デ・ラ・マレーナの、太く安定感のある歌声、
ダヴィデ・ロス・サントスの艶やかに通る歌声、
そして繊細で強靭、冷静で熱いエミリオ・マヤのギター。
カンタオールふたりとギターリストひとりという、
カンテへのリスペクトが伝わってくるような、重厚且つシンプルな構成からも
芳醇なフラメンコが伝わってくる。

堂々と正面を向いた踊りが印象に残る。
充実した生そのものが純粋にフラメンコにつながっており、
そこには実存のたくましさがあった。
時おり、客席の後方から、幼子の可愛らしい声が聴こえる。
1歳3か月になる、荻野リサさんの娘さんだった。
おばあさまだろうか、信頼する女の人に抱っこされ、
パパであるギタリストの逸見豪さんに見守られ、
まるでハレオを掛けるようにあどけない声を発していた。
それはきっと舞台で踊る荻野さんにも届いたことだろう。
小さなお子さんを抱えて、ソロライブの準備のための時間を捻出することは、
どんなに大変で、葛藤があったことだろう。
それでも着実に生きているという喜びが空気を満たしていた。
優しくおおらかな愛情が、舞台と客席とで交わされるように、
大きく対流していた。
余計なものは何も足さない、濃厚な味わいにただ酔いしれた、
そんな幸せなライヴだった。